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特集

2020年12月01日 (火) 特集

アーティストとスタッフの「こころ」をケアする
「メンタルヘルス」対策のすすめ

なかなか収束の見えないコロナ禍のなか、アーティストやスタッフのメンタルヘルスの問題が大きくクローズアップされています。
制作活動や、表舞台に立つということへの緊張感やプレッシャー。音楽ビジネスの急速な変化による先行きの不安…。もともと繊細で傷つきやすい心を持つ方も多く、心身を削りながら制作活動や表現活動をしているアーティストならではのストレスは膨大です。
そのうえさらに、収束の見えないコロナ禍によって思うように活動ができないという、厳しい試練が加わりました。 アーティストや、支えるスタッフにとって心のバランスを取り続けることが、より難しく、大変な時期になっています。 不透明な先行きが続くなかで自分自身を追い込んでしまわぬよう、ケアを必要としている人は多いのではないかと思います。そして、体の調子を整えるのと同じように、心の調子を整え健康を保つメンタルヘルスへの対策は、この先の社会において誰しもが身近な問題になっていくのではないでしょうか。
アーティストやスタッフが抱える心の問題をどうケアしていくべきか。音楽業界に近しいところにいらっしゃるカウンセラーや医師など、メンタルヘルスの専門家による座談会を行いました。

座談会出席者(写真右から)

星野概念さん

精神科医・ミュージシャンなど

profile

病院勤務の精神科医。執筆や音楽活動も行う。雑誌やWebでの連載のほか、寄稿も多数。音楽活動は様々。著書に、いとうせいこうとの共著『ラブという薬』(リトルモア/2018年2月)、『自由というサプリ』(リトルモア/2020年4月)がある。



石井由里さん

人財開発コンサルタント「ユリコンサルティング合同会社」代表

profile

レコード会社(東芝EMI、ユニバーサルミュージック)に合計31年勤務。主に洋楽・邦楽の音楽制作、マーケティング業務に携わり、マネージングディレクターを経て、自らのメンタル不調・休職・復職経験から、カウンセラーを志す。社内でメンタルヘルス対策、社内相談室、キャリアコンサルティング、社内研修プログラム等の体制を構築。2016年独立、音楽・エンタメ業界の組織や個人を対象に、メンタルヘルス、労務管理、ハラスメント対策、コミュニケーション等の働き方改革支援を行っている。



手島将彦さん

音楽学校講師・産業カウンセラー・保育士

profile

ミュージシャンとして数作品発表後、音楽事務所にて音楽制作・マネジメントスタッフを経て、専門学校ミューズ音楽院にて新人開発室、ミュージック・ビジネス専攻講師を担当。産業カウンセラー、保育士資格保持者でもある。主な著書に、精神科医の本田秀夫氏との共著『なぜアーティストは生きづらいのか?~個性的すぎる才能の活かし方』 (リットーミュージック/2016年4月)、『なぜアーティストは壊れやすいのか?~音楽業界から学ぶカウンセリング入門』(SW/2019年9月)などがある。また、『RollingStoneJapan』にて「世界の方が狂っている~アーティストを通して考える社会とメンタルヘルス~」を連載中。https://teshimamasahiko.com

~コロナ禍以降のメンタルの変化~

表に出ている人は“場所”がなくなってしまった。場所の喪失って、アイデンティティの喪失なんですよね。-星野-

最初は“こんなときだからなんとかしよう”と頑張れる。でもそれが長く続くと心がもたなくなるのが心配。-手島-

人と会わないことがどれだけストレスになるのか。コロナ禍前からあったコミュニケーションスキルの問題がよりクローズアップされている。-石井-

コロナ禍以降、星野さんは精神科医として人々のメンタルの変化を感じてらっしゃいますか。

星野 とても感じます。特に芸術方面では、予定されていた舞台がなくなったり、ライブができなくなったりして、明らかに仕事がなくなった人が増えましたよね。作家さんについては大きなアップダウンはなかった方も多いと思いますけれど、特に表に出ている人は、音楽にしても、演劇にしても、講演活動をしている人にしても、“場所”がなくなってしまった。
 場所の喪失って、アイデンティティの喪失なんですよね。そういう人のつらさは増えたと思いますし、実際になんかモヤモヤする、日々つらいという人が知り合いの紹介で来ることも増えた気がします。

手島さんはどうでしょうか。

手島 ひとつだけ間違いがないのは、音楽業界にかぎらず、社会や産業が変われば、確実にメンタルは影響を受けるんです。
 そうしたなかで、コロナ前から音楽業界も産業構造がガラッと変わってきた。ストリーミングサービスの時代に移行して、それによって食えなくなったミュージシャンやスタッフもいた。そこからライブでなんとかやっていこうとしてきたけれど、それも失われてしまった。
 結果としては残念なことなんですが、今までなんとなく蓋をしてきた問題が、ここにきてコロナで蓋が開いてしまったような印象を持ちました。

コロナ禍がアーティストやスタッフのメンタルに与えた影響についてはどうでしょう。

手島 大きく3つの変化があると思います。まず1つは経済的にきついし、先行きも不安定である。それはミュージシャンにかぎらずどんな人でも不安になると思います。
 2つめは、今までやれていたことができなくなった。演者としてステージに立つことができなくなったのもきついですし、これは音楽ファンにとってもそうで、これまでストレスの解消になっていたことができなくなったというのも大きい。普段は音楽の専門学校で教えているんですが、ライブハウスやコンサートに行くことで気分を発散していた学生さんにとっては、そういった機会が奪われたのがつらいという声も多かったです。
 3つめは、“不要不急”という言葉が象徴的だと思うんですけど、自分の存在意義や自分の職業の価値が否定されたように捉えてしまった人もいた。身近にもいましたが、人によってはこの言葉がグサっと刺さってしまった。
 あとは、問題が長期化すると誰でも疲れるんです。最初は“こんなときだからこそなんとかしよう”と頑張れる。でもそれが長く続くと心がもたなくなる。そこは心配ですね。

石井さんはカウンセラーとしてどんな変化を感じてらっしゃいますか。

石井 私の場合は企業側から相談を受けることが多いんですが、テレワークが導入されたことで変わってきたことはありますね。もちろん、仕事や働き方を見直すためのいいきっかけになった面もあると思うんです。ただ、人と会わないことがどれだけのストレスになるか気づかない人も多い。新しい状況を受け入れてみても、うまくいかないときに声があげづらい。特に新入社員のメンタルが心配だという相談は多かったです。
 それから、今までたいして部下のことを気にしていなかったような上司でも、見えない不安から無意識にマイクロマネジメントをしてしまう。中間管理職は上から一対一のミーティングをして部下の状況を把握せよと言われるんですけど、コミュニケーションスキルが足りないとうまく傾聴ができない。「あれはどうなってる」「これはどうなってる」と詰問口調になってしまう。結果、双方がストレスを感じて苦痛だ、という残念なことにも。
 コロナ禍前からあったコミュニケーションスキルの問題がよりクローズアップされているように感じています。

~メンタルの不調の兆候~

入口として大きいのは不眠。いろいろなつらさに不眠は紐づいている。-星野-

なかなか言い出せない人もいる。マネージャーさんは、いつもと違う様子が見えたら、本人が言うよりも先に気づけるようになることが理想。-石井-

▲星野概念さん

アーティストやスタッフもメンタルに不調を抱えていたり、悩んでいる例が多いと思います。もちろん人それぞれだとは思いますが、どんな兆候から気づくことが多いですか。

星野 いろいろありますけれど、やっぱり入口として大きいのは不眠ですね。疾患でも疾患でなくても、いろいろなつらさに不眠は紐づいているし、最初の段階で出てきやすいと思います。
 ただ、兆候が表れなくても、何かの変化があるときって、かなり気をつけたほうがよくて。なかなか自分では気づけないんですよね。不眠はわかりやすいですけど、なんか疲れているとか、表情が暗いとか、そういう変化は言われないと気づかない。
 手島さんが言ったように好きなバンドが解散してしまったり、ライブに行けなくなったりしてストレス解消の場がなくなってしまっている時点で、すでに危険だと思います。たとえば僕の知人で、シャムキャッツの大ファンの人がいるんです。シャムキャッツが解散してしまったことでご本人は自分の不調が深まるとは思っていないんだけど、でも、自然とその話題が多くなっていた。それって、やっぱり何か影響しているかもしれないから気をつけておきましょうっていう話にもなるんですよね。
 やっぱり、場所がなくなるのって、すごく大きなことなんですよ。

手島 特に小さなライブハウスって、音楽を聴くとかパフォーマンスを観るということだけでなく“どんな人でもいていい場所”としての役割がすごく大きかったと思うんです。クラブもそうで、単純に大音量で音楽を聴くというだけでなく“そこにいていい場所”というのがなくなるのがすごく大きい。
 あとは、以前から話題にあがっていたんですけど、アーティストやスタッフで失踪してしまう人もいますよね。明らかにふさぎ込んでいるとか兆候が見える方はまだよくて、頑張って過剰適応しちゃって、ある日突然失踪してしまう。

石井 会社員に対しては、労働契約法第5条で「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定められている「安全配慮義務」があって、「休職を要す」と診断書が出たら会社を休ませなきゃいけないわけです。
 でも、組織のなかで働く人と、いわゆるアーティストの人では立場が違う。休んだら迷惑がかかると思って、なかなか言い出せない人もいると思うんです。周りが気づくにしても、特にマネージャーさんもメンタルヘルスの知識や理解があるとはかぎりません。だから、いつもと違う様子が見えたら、それをできるだけ汲み取って、マネージャーさんはじめ近くにいる誰かに、本人が言うよりも先に気づいていただけたら理想ですが、それは言葉でいうほど簡単じゃない。
 だからこそ誰もが正しい知識と理解を深めて、問題に対処する方法を少しでも知っていただけたらとは思います。

手島 たとえばスタジオミュージシャン的な仕事をされている方の話では、メンタル的なトラブルを抱えていることが知られると仕事が来なくなる不安があるから言わないという人もいますね。

石井 そこは海外と違うところですね。海外ではメンタルヘルスの問題を当たり前のように発信しているアーティストも多いですし、それが共感を呼んでいるようなところもある。日本でももっと理解が進んでもいいんじゃないかと思います。

手島 世界的な潮流として、特にビリー・アイリッシュのようなアメリカのZ世代はメンタルヘルスについての問題を発信するようになっていますよね。日本でもアーティストが自然に発信できるような流れが生まれるといいなと思います。

~メンタルケア対処法~

体の調子に気をつけるのと同じように心の傾向を気にかけておくと、ネガティブな感情がわき起こっても対処しやすい。
-石井-

“不要不急”と“3密”こそが人に必要。“あいつに打ち明けてみよう”って思える“謎のお友達”がいるのはすごくいいこと。
-星野-

▲石井由里さん

星野さんは『ラブという薬』のなかでも、いとうせいこうさんとの対話の中で「もっと気軽に精神科に通ったりカウンセリングに行ったりしていい」ということを書かれています。このあたりについてはどうですか?

星野 必ずしもカウンセリングとか、精神科に通院するとかじゃなくてもいいと思うんです。今は難しいですけれど、たとえば、行きつけのバーやスナックのようにリラックスして好きにしゃべったりする場所があるだけでも違う。
 スタジオミュージシャンや誰かのサポートのような仕事をしている人は、基本的に気を使うことがほとんどだと思うんです。そこで何かしら抑圧や抑制をかけながらずっと仕事をしていると、疲れてしまう。カウンセリングとか精神科の受診って、“この時間はあなたの時間なので、好きにしゃべってください。それを聞きます”というのが保証されている場所なんですね。
 そういう場所じゃなくても、気軽に話せるマスターがいるとか、その店の雰囲気と自分がフィットして、来るお客さんとも仲良くて、そこに行くと心が軽くなる場所があるっていうのは、いいことだと思います。そういう場所が思ったよりも必要なんだっていうのは、今は本当に思います。

コロナ禍以降、ふらっと飲みに行くというのもなかなか難しくなってしまいましたね。

星野 コロナ禍以降に病院で仕事をしていて思うんですけど、僕としては“不要不急”と“3密”こそが人に必要だということが、今回ありありとわかったと思うんです。ライブハウスもクラブもそうだし、小さな飲み屋もそう。“不要不急”って言い換えれば無駄ということかもしれないし、あんなところに行って金使ってどうするんだみたいなことを考える人もいるかもしれないけれど、多くの人には必要で。そうじゃないと、さっき言った長引いた場合にもたないっていうのは絶対にありますよね。

現状、なかなか先が見えない状況ではありますが、アーティストやスタッフのメンタルケアについて、どんなふうに対処していくのが望ましいと思いますか。

石井 やっぱり、業界で働いているみなさんに思うことなんですけど、問題が起きてから誰かに相談したりお医者さんに行くのももちろん大事ですが、今、自分がどういう状態にあるのかを自分自身がわかっておくことがすごく大事だと思うんですね。体の調子に気をつけるのと同じように自分の心の傾向を気にかけておくと、ネガティブな感情がわき起こっても対処しやすい。
 そもそも、今コロナ禍で、こんな不安定な世の中なのだからみんなどこかしらおかしくなっても当たり前で、“そんなはずはない”と自分の感情を否定したり抑え込んでしまうのが一番危険だと思います。
 たとえば私はレコード会社時代、社内マッサージルームとカウンセリングルームの運営担当で、「体が疲れたらマッサージ、心が疲れたらカウンセリング」「カウンセリングは心のマッサージ」と言っていたんです。同じことを手島さんがご著書のなかで書いていらして、自分の心の声を聞いてエステやマッサージに行くような感覚でカウンセリングを受けられるぐらいになってほしいと思います。
 メンタルヘルス研修を行う代わりに、厚生労働省の運営している『こころの耳』というサイトをおすすめすることもあります。セルフチェックもできますし、病院や相談窓口を探すことも、メンタルヘルス対策を学ぶことも無料でできる。いろいろな情報がわかりやすくまとまっていると思います。

手島 専門書とかを読むよりも、厚労省のサイトがオーソドックスでわかりやすくまとまっていますよね。

たとえばフェスのバックヤードにマッサージルームがあったり、体のケアに気を配っているアーティストやスタッフの方は多いイメージがあります。

石井 そうですね。それに加えて、たとえば長期の映画のロケに出るときに精神科医の先生がついていくようなこともあります。
 あとは、海外のアーティストで、お医者さんじゃないですけど、セラピストや、”謎のお友達”を連れてくるような人もいました。何をするでもないんだけれど、お話し相手になってくれる人。そういう人がいることが当たり前になったらいいなって思います。

星野 今おっしゃった”謎のお友達”って、めちゃくちゃいいと思います。僕、患者さんと“謎のお友達”にどれだけなれるかが、常に診察の目標なんです。どこかに一緒に行ったりはできなくても、“あの人がいる”みたいな感じで心の片隅に存在している人がいるのといないのとでは、孤独感が全然違う。
 やっぱり、人ってとにかく孤独がすごくつらいんですね。たとえ周りにメンバーやスタッフがいたり、家族がいたりしても、孤独じゃないとは言いきれない。心の居場所があるかどうかという話なんです。
 だから、謎の友達が1人いるというのはすごくいいことなんですよ。“あいつに打ち明けてみよう”って思えるだけで心の居場所になる。たとえ一緒に暮らしている家族がいても、誰とも気持ちが通じ合っていないと、自分で自分を追い込んでしまって、救命救急に運ばれてきたりするんですよね。
 あとは趣味というか、なんでもいいけれど夢中になれるものがあれば、そこに集中している時間は孤独な時間ではない。そうやって、人とか場所とか夢中になるものとか、心の居場所がいくつかあることは、すごく大事なことだと思います。
 あとはもうひとつおっしゃっていた、自分の体のメンテナンスもすごく大事で。コロナ禍の前って、みんなどれだけ成功できるかって、外にばっかり目が向いていて、不養生だったんですよね。でも、養生を心掛けると、自分の体の変化に鋭敏になる。自分の体に目を向けることは、体調を崩さないためには大事だと思います。

~働き方改革の必要性~

「俺たちの時代は」と自分を基準にせず、大事なアーティストやスタッフを守るためにも、メンタルヘルスも考えていくことが大事。-石井-

“好きなことをやっているかどうか”ではなく、アーティストもスタッフも適切な範囲内で働く必要がある。-手島-

▲手島将彦さん

手島さんとしてはこの先の提言としてどんなものがありますか?

手島 単純に、ちゃんと音楽ビジネスのことを考えるのであれば、最初の時点からアーティストのメンタルケアを意識しておくことが大事だと思うんです。
 たとえばBTSは、デビューと同時に事務所がメンタルヘルスの教育をしている。売れて大変になってから、問題が起きてからではなく、最初からきちんとケアをする。そうすれば何かあったときに誰かしらに相談できたり、すぐに対処したりすることができる。だからこそ、いろんなことを乗り越えて、あんな大きな結果を出すわけです。
 ひょっとしたら、今までも1人2人のメガヒットを出す人たちの影で、そういった問題でうまくいかなかったアーティストがいるかもしれない。でも、そういう人たちがうまくいくようになれば、音楽産業としてもすごくいいことで。きれいごとではなく、音楽ビジネスとして考えたときにも、メンタルヘルスみたいなことを念頭に置いておくことは、すごく重要だと思っています。

星野 手島さんが今おっしゃられた“売れたいんだったらメンタルヘルスが大事だ”って、本当にそうだなと思います。
 自分にしても、周りのみんなが売れていって自分だけ取り残されたような卑屈な気持ちになってメンタル的に閉じていたときよりも、バンドをやめて穏やかな気持ちで音楽をやるようになってからのほうが、音楽の仕事をもらえるようになった。
 メンタルヘルスなくして長く豊かな音楽活動はなし、ということですね。

エンタテインメント業界のエグゼクティブが、アーティストやスタッフのメンタルケアを意識する必要性もあるのではないかと思います。

石井 業界のトップエグゼクティブのなかには、そういうメンタルの不調さえも自力で乗り越えることを矜持としてこられた方たちが多いように思います。なので「俺たちはそんなのに負けなかった」「メンタルの弱い人間が増えた」とお嘆きになるお気持ちもわからなくはありません。働き方改革の労務管理のときもはじめはそうだったんですね。「俺たちはどれだけ働いても平気だった」と。
 でも、この1、2年でずいぶん意識が変わられました。大事なアーティストやスタッフを守るためにも、今度はメンタルヘルスについても自分を基準にせずに考えていただきたいです。メンタル不調はどんな人でもなる可能性があり、弱いからなるわけではないですから。

手島 メンタルヘルスや働き方改革の話をすると、同業者やエンタメ関係の方に必ず言われるのが“好きなことをやっているんだからいいよね”ということなんです。何十時間働こうが好きでやっているんでしょと。
 それはそうなんですけど、気をつけないといけないのは、実際に自分の仕事のペースを自分で決められる裁量権を持っているかどうか、ということなんですね。実際のところ、自分で決定権を持っている人はほとんどいないと思います。作家さんにも締め切りがあるし、ツアーのスケジュールが先々まで決まっているようなアーティストも多い。“好きなことをやっているかどうか”ではなく、アーティストもスタッフも、その人に決定権がないのであれば、適切な範囲内で働く必要があるということなんですね。
 あとは、2022年からメンタルヘルスが高校の保健体育で必修になるというのも知っておいたほうがいいと思います。新しい世代は基本的なことを学んでくるわけだから、古い世代の人たちも、今からでも遅くないので基本的なことだけでもおさえておくのがいい気がします。

 星野概念さん、手島将彦さん、石井由里さんにそれぞれの立場から語っていただいたように、アーティストや、それを支えるスタッフのメンタルヘルスのケアは、この先より重要になっていくはずです。
 もし悩んでいる人、葛藤や苦しさを抱えている人は、1人で抱え込むことなく、信頼できる誰かや、カウンセラーや精神科医に相談してみてください。
 そして、アーティストを支える立場の人は、メンタルケアの基本を学びつつ、“何かあったらいつでも頼れる、打ち明けられる”ような、このてい談のなかで言われている“謎のお友達”のような存在でいることも大切でしょう。
 もちろん、メンタルヘルスの問題は音楽やエンタテインメント業界だけにとどまるものではありません。心に不調を抱えた人をサポートすべく、社会のムード自体が変わっていく必要もあるはずです。
 不幸なことを少しでも減らすべく、メンタルヘルスへの理解と対策が進んでいくことを願います。

音楽ビジネス・パネルトーク「Music Ally Japanチャンネル」
Vol.6「アーティスト、音楽業界が直面するメンタルヘルス問題
〜現在の取り組みと、改善への支援方法〜」開催


【日時】12月16日(水)19:30〜20:30
【配信元】ZOOM
【参加費】無料(視聴には登録が必要です)
【テーマ】アーティスト、音楽業界が直面するメンタルヘルス問題
 〜現在の取り組みと、改善への支援方法〜
【ゲスト】
 石井由里さん:人財開発コンサルタント「ユリコンサルティング合同会社」代表
 手島将彦さん:音楽学校講師・産業カウンセラー・保育士
【モデレーター】
 ジェイ・コウガミ(デジタル音楽ジャーナリスト / Music Ally Japan)
【参加登録はこちら】
 https://www.musically.jp/majchannel


本稿とあわせてぜひ読んでほしいサイト

『こころの耳』精神科・心療内科などの医療機関
[出典:こころの耳]
https://kokoro.mhlw.go.jp/facility



いのち支える相談窓口一覧(都道府県・政令指定都市別の相談窓口一覧)
[出典:いのちを支える自殺総合対策推進センター(JSSC)]
https://jssc.ncnp.go.jp/soudan.php



『今どうなっている?どう防ぐ?データから知る自殺の状況と対策』内
「うそ、ホント? 自殺に関する迷信(myth)と事実(fact)」
[出典:厚生労働省ホームページ]
https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/taisaku/usohonto

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