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特集

2019年10月04日 (金) 特集

interview 4

映画にとっての音楽とは?

桝井省志さん

映画プロデューサー

上映中のミュージカル映画『ダンスウィズミー』をはじめ、『Shall weダンス?』『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』など多数の音楽映画を手掛けている桝井プロデューサー。なぜ音楽を題材にした映画を製作するのか、ずばり聞いてみた。

リスペクトをしている人たちの音楽を入れると、
自分自身の映画になる感じがしますね。

全部ゼロベースで始めるのが大変でもあり面白い

『ダンスウィズミー』でミュージカルに挑戦したきっかけは何でしょうか?

『スウィングガールズ』の撮影をしたときにスーパーマーケットのシーンがあって、矢口(史靖)監督はそのシーンを全編ミュージカルでやりたいとおっしゃったんですが、100人規模の撮影になってしまい、それだけで1週間ぐらいかかっちゃいそうだということで、そんな事情で当時あきらめてもらったんです。「将来そういう機会があればまたそのときは必ず実現させますから」ってその場は逃げたんですけど、監督がおぼえていてそろそろやりたいって(笑)。映画では、振り付けや踊りや歌を練習するのにどれぐらい時間やお金がかかるのかとか、曲をどうするのかとか、全部ゼロベースで始めるので、そこが作り手としては大変でもありますが面白いチャレンジですよね。ミュージカル経験があるキャストやスタッフを起用することをあえてしないので、踊りも歌もほぼ初めてというような人たちが最後までギブアップしないで作品を完成できるのかっていうのは、正直言って賭けなんですよ。映画って、予定調和の物作りは面白くないんですよね。

シンガーソングライターのchayさんが出演していますが、起用したきっかけは何だったんですか?

キャストはほとんどオーディションで決めるんですね。広く声をかけたら、chayさんはお芝居の経験がないけれどやってみたいというお話だったので、オーディションに来ていただいたんです。彼女も歌以外に幅を広げたいというタイミングとちょうど合ったんです。彼女は映画の撮影現場を本当に面白がって楽しんでくれました。

それはどういう意味でしょう?

彼女の今までの作業は自分の世界観をどうするかというところから始まっていたと思うんですが、今回は、曲は「ウエディング・ベル」を歌いなさい、こういう役ですと決まっていて、しかも主役でもない。そういう意味では、音楽を背負っている普段の世界から解放されて、映画の世界にすべて身を委ねた初めての経験だったんじゃないでしょうか。

山本リンダさんの「狙いうち」、サディスティック・ミカ・バンドの「タイムマシンにおねがい」といった劇中の選曲はどう決めたのでしょう?

新曲をタイアップで選曲するという発想は最初からありませんでした。だから冒頭で流れるスペクトラムの曲も、前作のとき参考資料で聴いた楽曲で、監督の耳の中に残っていて。布袋(寅泰)さんが作った曲(「Tonight(星の降る夜に)」)も、監督の渾身の選曲です。日本の隠れた名曲を新曲のように何気なく使えるといいねって監督とも話していましたから、「ウエディング・ベル」もワーナー映画の宣伝部の方に「えっ、映画のために作ったんじゃないんですか?」って言ってもらえて、監督はしめしめって。

そうした選曲に桝井さんからアイデアは出しましたか?

たとえば今回はサディスティック・ミカ・バンドや山本リンダや井上陽水とか、あらゆるジャンルや時代を超えて候補曲を見つけ出し、選曲では監督やスタッフと試行錯誤を繰り返しました。そのなかから、監督の感性で最終的に選曲されたんですね。監督のトータルのセンスが出ました。矢口セレクションの世界観なんですよ。

いろいろな音楽家の方と出会えるのが楽しみ

音楽を重視する映画を作りたいというのは、桝井さんがアルタミラピクチャーズを作られた当初から考えていましたか?

やっぱり私は60年代の音楽の洗礼を受けた世代ですから。その後やっと映画に出会うんですね。ただ、映画を作る場合となると、自ずと音楽家が必要となりますよね。いろいろなミュージシャンや作曲家の方と出会えるのが楽しみですよね。

アルタミラは、ほかの映画会社にくらべて映画製作費のなかでの音楽にかける比重は高いようですが。

『スウィングガールズ』はジャズの映画だということで、“これは音楽に製作費を使わないと、だってジャズが主役でしょ?「A列車で行こう」を使わないわけにはいかないでしょ?”と。自分たちの映画にルイ・アームストロングがありかといったら、ありなんですよね。だって数百万円の許諾料を払えば使えるんですから。『Shall we ダンス?』でもドリフターズの「ラストダンスは私に」を使っていて、自分のリスペクトをしているミュージシャンの音楽を入れると、自分自身の映画になる感じがしますね。音楽使用料では音楽業界にかなり貢献していると思います(笑)。

『ウォーターボーイズ』では、青江三奈さん、ザ・キングトーンズ、フィンガー5なども使われていました。

「オンリー・ユー」はオリジナルのプラターズも使えないわけではなかったんですよ。でも私はキングトーンズの内田正人さんのハイテナーが大好きで、あえてカバーのキングトーンズを選んだんですね。好きだったんです(笑)。今思うと矢口映画っていうのは、『ウォーターボーイズ』も『スウィングガールズ』も実はミュージカル映画だったんですね。矢口監督はもともとミュージカル的な映画の作り方をしていたんだなって、今さら気づきました。

アーティストへのリスペクトや感謝、その音楽を若い世代に伝えたい

アルタミラでは音楽ドキュメンタリーも製作されていますね(下欄参照)。フィクションとノンフィクションの違いはどう考えていますか?

フィクションっていうのは、脚本ができあがって、それから予算を立て、出資者を集めて、そしてキャスティングをして、設計図をもとにひとつひとつ段階を踏んで作っていくじゃないですか。うちのドキュメンタリーは、もともと商売にするつもりじゃなかったんです。俳優の柄本明さんが高田渡さんを紹介してくれて、いつの間にかドキュメンタリーを撮ったら面白いかなって思って、そのうちだんだん渡さんにハマっていったんですね。ゴールデン・カップスは私の子供の頃のアイドルで、再結成してほしかったんですよ(笑)。本人たちは今さらなんで再結成するのかよって感じでしたが、「映画にするんだからお願いします」っていう感じで、口説く口実に映画を使ったというのが本当の話ですね。本人たちは気まぐれですから、実は再結成できないかもしれないという覚悟もしていました。

それもまた映画になると?

ドキュメンタリーの場合は最終形が見えないまま撮影に入ります。バタヤン(田端義夫)も、最後の撮影をどうするかってときに入院されたんですよ。退院されたところで“これからだっせ人生は!”とういバタヤンのきわめつけの一言をもらって作品を締めくくろうかと企んでいましたが、残念でしたが亡くなられたんですよね。それで作品の編集プランを変えて映画は完成させました。遠藤賢司さんについては、“世間は遠藤賢司をこのまま放っておいていいのか”という私の個人の強い思いもあって、私はエンケンさんに、マディソンスクエアガーデンか武道館でやりませんかって口説いたんですね。武道館は、お客さんを入れないと安く借りられるんです。じゃあエンケンさんだけでライブをやろうと、武道館を借りたんですよ。アリーナを全部美術で飾って、アンプを100台並べて、狂ったようなことをやってました。映画撮影のための無観客ライブです。当時、私もエンケンさんも何かに取り憑かれていたんだと思う(笑)。

ミュージシャンのドキュメンタリー映画を桝井さんが作り続ける最大のモチベーションは何でしょうか?

こういうエンタメの片隅で仕事をさせていただいていて、自分に影響を与えくれたアーティストへのリスペクトや感謝と、そしてその音楽を若い世代に伝えたいという思いです。そして映画というジャンルでアーティストの記録に残しておきたいと思ったんです。ささやかな使命感でしょうか。最悪映画の出来が悪くたって映像として記録は残るじゃないですか。

今後作りたい作品はどのようなものでしょうか?

僕が音楽を聴き始めたとき、ザ・フーの『トミー』みたいなロックオペラがあって、今それをやってみたいんですよね。やりたい音楽を先行して作って、それに合わせて映画を作る。本格的な音楽映画、ロックオペラは作ってみたいです。音楽に対するリスペクトをもっとちゃんと表すものをもう少し作ってみたいなと。現在の日本の音楽業界は音楽の歴史を作った先輩たちに対して少し冷たいんじゃないかと思うんですよね。日本の音楽シーンを作ったきたレジェンドの音楽をちゃんと伝えていかないといけない。日本のポピュラーミュージックの歴史を現在までたどる、劇映画やドキュメンタリーをまだまだたくさん作りたいなと思ってます。本業の劇映画もまだまだ作り続けますよ、もちろん映画にお金を出していただける方がいるかぎりですが(笑)。

桝井省志さんの主なプロデュース/製作作品

『ダンスウィズミー』
(2019年/エグゼクティブプロデューサー)

『ウォーターボーイズ』
(2001年/エグゼクティブプロデューサー)

『スウィングガールズ』
(2004年/エグゼクティブプロデューサー)

『ザ・ゴールデン・カップス ワン モア タイム』
(2004年/製作)

『不滅の男 エンケン対日本武道館』
(2007年/製作)

『タカダワタル的ゼロ』
(2008年/製作)

『こまどり姉妹がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!』
(2009年/製作)

『オース!バタヤン』
(2013年/製作・監督)

PROFILE

大映のプロデューサーを経て、映画製作プロダクション「アルタミラピクチャーズ」を設立、矢口史靖、周防正行、磯村一路らと映画を製作。最新作『ダンスウィズミー』ではプロデューサーとして関わっている。

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