音楽もボクシングも、ステージに出たら
1人なんですよ。コケるもウケるも自分次第。
音楽のリズムとボクシングの間合いはすごく似ている
ボクシングのアテネ五輪候補選手として日本代表の合宿にも参加していたTEEさんですが、その頃の経験が音楽活動に活きている部分はありますか?
ボクシングを引退するときに監督から「これをここまで乗り越えたんだったら社会に出ても全然へっちゃらだから」って言われたんですけど、実際に音楽を始めてからその言葉の意味がよくわかりました。くじけそうになっても立ち上がろうとするマインドとか、忍耐力によって続けることができている。あと、これはびっくりしたんですけど、音楽ってリズムを取るじゃないですか。そのリズムでみんなを自分と同じ方向に向かせなきゃいけないんですよ。で、何かトリッキーな動きや音や歌詞をバコーン!とぶつけたときにお客さんが「え、何それ?」って驚く。それってボクシングと一緒だなと思って。
興味深い話ですね。
ボクシングも相手を自分の間合いに入れさせといて、そこでトリッキーなパンチをバコーン!と喰らわせると「え?」ってなる。それがすごく似てるなって。あと、僕のマネージャーもボクシングイズムを持っているのか、ライブって衣装チェンジとかで一回ステージ裏に戻ったりするじゃないですか。そしたら「もうちょっと攻めろや!」ってセコンドみたいに言ってくるんですよ(笑)。それで「いくぞ! カーン!」みたいな感じでステージにまた出ていく。
完全にボクシングそのものじゃないですか(笑)。
あと、ライブに向けてアップするときはシャドーボクシングをする。それで、縄跳びしてステージに上がるんですけど、そこはボクサー時代から変わらないですね。もう染みついているものなんで、一番体が温まりやすいんですよね。
ここまでの話だけでも、ボクシングと音楽の親和性の高さに驚いています。
だからステージに立ったとき「懐かしい感覚だな」と思いました。いろんな人と練習して、いろんな人と作戦練ったりするんですけど、「行ってこい!」と言われてステージに出たら1人なんですよ。頼る人も自分自身だし、コケるもウケるも自分次第。そこはボクシングと同じだなって。
「音楽は勝ち負けじゃないからお前自身を磨けばいい」って
ただ、ボクシングの相手は倒さなきゃいけない敵ですけど、音楽の場合はこちらの在り方ひとつで相手が敵にも味方にもなりますよね。
たしかに圧倒的に違うのは勝ち負けなんですよね。ボクシングは殺意メラメラな顔でやっていて、リングの上では「殺してやる」って勢いで戦っていた。でも音楽は違うんですよね。自分はカナダで音楽を始めたんですけど、そこで出会ったジャマイカ人から「お前はいつも、あいつがカッコいいから俺もカッコ良くなりたい、あいつがうまいから俺もうまくやろうと思ってる。音楽は勝ち負けじゃないから『あいつが楽しそうだから俺も楽しい』で良いんだよ。うまいとかヘタとかじゃない。だからお前は誰も目指さなくていい。お前自身を磨けばいい」って言われて、それからすごく楽になりました。その言葉があったから誰とも競うことはなかったし、誰かの心に歌をヒットさせるためだけに自分を磨いている。だからライブはホームとかアウェイとかもまったく関係ないし、自分が今持っているものを出し切るだけで成立するんですよね。そこはスポーツと音楽の違いかなと思います。
ボクシングと音楽のキャリア、今、どっちが長くなっているんですか?
ちょうど並んだぐらいです。音楽のほうが長くなる、そのタイミングで東京五輪もあるし、ボクシングの日本代表に向けた作品も作れたらいいなと思っているんですけど、僕もデビュー10周年を迎えるので、2020年はこれまでのボクシング人生と音楽人生のひとつの集大成みたいになるんじゃないかなって。なので、ぜひ注目してもらいたいですね。
PROFILE
広島出身のシンガーソングライター。ボクサーを目指すも怪我で断念し、カナダのクラブで音楽に目覚める。2010年にシングル「3度のメシより君が好き」でユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。4thアルバム『Golden 8』が発売中。2月1日(土)広島クラブクアトロでツアー“TEE LIVE TOUR 2019 『VOICE×Golden 8= ∞』”の追加公演を行う。