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名物プロデューサー列伝

2018年07月22日 (日) 名物プロデューサー列伝

vol.76 有限会社ブルーソファ 本間昭光 さん

今回は、いつもとちょっと趣向を変えて、「ak.homma」名義での活躍やテレビ番組『関ジャム』出演などでお茶の間でも広く知られる音楽プロデューサー、コンポーザー、アレンジャーの本間昭光さんをお迎え。これまで数々のヒットを飛ばしてきた本間さんにとって“プロデューサーの極意”とは?

スタジオが盛り上がると、相乗効果として、ヒットの確率が上がっていくんですよね。

音楽業界のキャリアのスタート

音楽プロデューサーとしての活躍はもちろん、音楽をわかりやすく解説する人気テレビ番組『関ジャム  完全燃SHOW』への出演もあり、本間さんは意義を持ってお茶の間へ音楽の楽しみ方を伝えてくださっています。

 あの番組の果たしている役割は大きいですよね。音楽に特化したわかりやすい『タモリ倶楽部』的なアプローチだと思います。同じ系列のスタッフがやられてるということもあって、マニアックに掘り下げて、それを関ジャニ∞のみんなが砕くという構図が良かった。ほぼカットないんですよ。あのままの感じでやってるので。リクエストされるのは“わかりやすく”と“深く”。視聴者が望むものと合致したんですね。音楽の聴き方が変わってくると思うので、楽しいかなと。

音楽業界のキャリアのスタートは?

 80年代後半からアイドルのサポートバンドでのスタートでした。コンサートのバックバンドで場数を踏んで、レコーディングに参加して結果を出して、評判がいろいろ伝わり始めてようやくアーティストエリアの仕事へ辿り着けるんです。なかには最初から飛び込んでる人もいるんですけど、それは、ずば抜けた才能の持ち主。今は、YouTubeしかり自分でいろいろ発信できるじゃないですか?  でも当時は、まず認められないことには作品すら作れない状況でした。アーティストとしてデビューするのも、もっと難しかったですからね。

プレイヤーとしての武者修行から得たものは大きかったですか?

 そうなんですよ。アイドルは、船山基紀先生のような大先生が編曲をされることが多かったので、そのような方々のデータを見られることが多かったんです。レコーディングで使った譜面などね。当時はテープシンクだったんですけど、4chにまとめられたトラックを聴いて“なるほど〜、こういうふうに構築してるんだ!”って勉強できたのが大きかったです。教わるより、現場でおぼえていく時代と言いますか。

音楽プロデューサーとして

音楽プロデューサーを意識されたきっかけは?

 アレンジャーというのは完全に外注業者なので、個性を出そうとするにも限界があるんですよ。レコード会社や事務所の狙いを具現化するのが仕事だと思っていました。それを10年くらいやっていた頃にそろそろ自分でも何か始めないと、このまま使われるだけで終わってしまうと思ったんですね。自分で形にして、自分で結果を残さないことにはダメだろうって。音楽プロデューサーになるにはどうしたらいいかって、自分でノートに意識的に書いてました。全部書くことで、具体的な目標値ができたので。

音楽プロデューサーとして手応えを感じられた最初のお仕事は?

 やはりポルノ(グラフィティ)ですね。その前の、槇原(敬之)くんではライブのバンマスをやって、大きな影響を与えてもらいました。広瀬香美さんではコ・プロデューサー(共同プロデューサー)だったんです。音周りに関してはほぼ任せてもらって、ある意味、人のふんどしで実験をさせてもらっていました。そんなときに、浜崎あゆみさんの仕事があって。そのときはMax Matsuura(松浦勝人)さんプロデュースで。自分の方程式を持ち込んだらまったく自分とは発想が違ったんです。でも、それがとても良かったんですよ。なるほど、こういう視点で物作りをすることが音楽を売っていくひとつの側面なんだってことを学べて。

なるほど。成長するうえで、視野を広く持つことの大切さですね。

 槇原敬之における木崎賢治さん、広瀬香美における田村充義さん、浜崎あゆみにおけるMax  Matsuuraさんっていう、タイプの違うプロデューサーの下について勉強できたのは第2期の変革でした。浜崎さんを担当しながら、広瀬さんも槇原くんも、三つ巴で重なってたんです。でも、やっぱり全部ゼロからできるものを作らなきゃいけない。それがポルノでした。たまたまそこには、作曲というプラス要素もついてきたんで。

PORNOGRAFFITTI

PORNOGRAFFITTIの作曲を本間さんが“ak.homma”名義で手掛けられたことは話題となり、ヒット曲の連発にもなりました。

 それまで自分はアレンジ生活しかやってなかったので、曲もほぼ書いてなかったんです。でも、アレンジャー生活が長いのでいろんな作家のいろんな手法が体に染み込んでいました。結果、その手法をデータベースとして、自分なりの表現をすることになりました。ポルノの場合は、まず3人組のユニットバンドを売るためにはどうしたらいいかを考えたんです。まずは売らなきゃいけない。メジャーでは売ることがまず第一に望まれる結果なので。いい作品だねって言われても売れなかったら自己満足で終わってしまいます。結果を出すことを第一にチームで考えました。幸いなことに結果が出たものですから、いけいけどんどんで(笑)。それまで作曲家、プロデューサーというイメージはそんなについてなかったんですけど、ポルノがきっかけになったのは間違いないですね。

アーティストから教わることも?

 ありますね。一番大きなところは、コンセントレーションの重要性と言いますか、自分をコントロールする術に長けている人じゃないと、昇っていけないし残れないんだなと感じました。それは槇原くんも広瀬さんも浜崎さんも、ポルノもいきものがかりも、ちゃんとてっぺんを獲っている人たちはセルフプロデュースが確実にできる人たちなんです。あと、コミュニケーション術ですね。寡黙なだけでは成功しないですから。たとえ寡黙な方でも伝える言葉のポイントをわかってらっしゃるんです。たとえば、松任谷由実さんと話をすると、今までに本当に、いろんな話をうかがったんですけど2回として同じ話がないんですよ。それなのにすべて刺激的なお話なんです。僕らは感化されるし、きっとそれは周りのスタッフにもそうだと思うんですよね。そもそも信じられないくらいに豊かな経せるかのセルフプロデュース能力が結局ポイントなんじゃないかなって。優れた作品が書ける、表現するのは当たり前という前提でね。そのうえで、やっぱり成功には必要なことなんじゃないかなって。

てっぺんを獲っている人たちはセルフプロデュースが確実にできる人たちなんです。

“時代の音”とは?

海外の流れを見てると“時代の音”というのがあると思うんです。機材の進化、スタジオの変化などもあると思いますが、どのように受け止められていますか?

 ここ3年ばかり、グラミー賞授賞式を観に行かせていただいてて、とにかく感じるのはどんどん音像がシンプルになっていってるのと同時にハイファイになっているんですよ。ローファイに見えて実はハイファイなんです。あと、低音の扱い方が年々進化していますね。J-POPも、向こうの洋楽に追いつけ追い越せで独自の進化をしていると思います。でも、まだまだ世界に認められるのには時間がかかってしまいますよね。背中を見るだけでなく、世界の潮流をわかったうえで独自性あるJ-POPに取り組まないことにはダメだなって。

なるほどです。

 ポイントは、音数を減らしていくことと低音をしっかり出すこと。低音というのはスーパーローではなく、体に感じる低音ということ。ものすごい低いところで出ていてもイヤホンでは再生されないので。再生される低音を意識したアレンジがこの数年のグラミーでは受け取れるんです。もちろん、J-P OPのきらびやかさというのは独自の文化だから残したほうがいいと思います。先日、ブルーノ・マーズを観に行ったところ、音の構成はシンプルだけど、受ける印象はめちゃめちゃ派手なんですよ。それはそぎ落としのアレンジがされてるってことで。逆に重ねていくのがJ-POPなんです。落として落としても派手に聴こえてるのがポイントで。彼の場合は声が楽器なんで、それができるというのもあるんですけど。日本でもトライしていく人が増えたらいいなって思います。

本間さんのなかで、発売前にこの曲は売れると感じるポイントはありますか?

 スタジオでの空気感ですね。スタジオの空気感が盛り上がって、でも残念なことに、まったく売れなかったってこともあるんですけど、盛り上がるって人間の自然の感情なんですよ。作っていて盛り上がるってすごいことで。相乗効果として、発売へのプロモーションその他すべてに力が入るんです。スタッフが盛り上がるっていうのは、プロモーションに力が入る。ミュージシャンが盛り上がるっていうのは、ほかの現場にいい噂が流れる。いろんな効果があるんですよ。ヒットの確率が上がっていくんですよね。

PROFILE

本間昭光

1964年生まれ、大阪府出身。Wink、工藤静香らアイドルのライブでキーボーディストとして活動後、槇原敬之のバンドマスター、広瀬香美との共編曲、浜崎あゆみのサウンドプロデュース、PORNOGRAFFITTIの作曲・編曲・トータルプロデュース、いきものがかりの編曲・プロデュースなどを手掛けてきた。現在はブルーソファに所属。

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