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名物プロデューサー列伝

2018年06月22日 (金) 名物プロデューサー列伝

vol.75 株式会社CENTRO代表取締役CEO 鈴木竜馬 さん

RIP SLYME、BONNIE PINK、きゃりーぱみゅぱみゅ、ゲスの極み乙女。などを成功に導いた、ワーナーミュージック・ジャパン執行役員でありunBORDEのレーベルヘッドでもある鈴木竜馬さん。昨年10月に設立した360度ビジネスの新会社CENTROのことから、ヒットの方程式までを聞いた。

ものすごい勢いでV字回復していて、今音楽業界はもうオラオラですよ(笑)。

新会社「チェントロ」について

鈴木さんはご自身のことを、よく「プロデューサー」と称していますよね。

 そうですね。プロデューサーってもちろん、映画のプロデューサーもいれば、音をディレクションするサウンドプロデューサーみたいな人もいれば、いろんなシチュエーションにおけるところがあるんですけど。僕はやっぱりいろんなことを結びつけて、1+1がそのまんまイコール2じゃないものにするっていうかね、くっつけることによって、より立体的な事象を作っていくことができる人がプロデューサーだとしたら、そういうプロデューサーでありたいなっていう思いはすごくあります。

そんななか、昨年10月にワーナーミュージック・ジャパンが360度ビジネスを中心とする会社「チェントロ」を設立し、鈴木さんがその代表取締役に就任しました。

 大きな先人としては、ソニーミュージックさんはマネージメントに特化したところでSMAもあるし、代理店機能のSMCがあったりマガジンズがあったり、セパレートされた状態で機能していますよね。うちは小さな会社なんで、何かを分社化してというわけではなくて、ひとつのところに内包せざるを得ない。ということがありつつ、マネージメントというところでいえば、今でいうと大きいのはゲスの極み乙女。ですけど、彼らはいろんな渦中にあって元の事務所さんを離れたときに、レーベルの僕らとしてはその才能を焦がさせてはいけないという思いもあったから、じゃあもう一回根っこから責任を持ちますよと。そういう意味では、まず会社のなかでニーズが起きていたんですけど、僕は最初、違う人間を代表に立てようと思っていたところが実はあって。そしたら、いやいやそこはお前がやってくれよっていうことも含めて(笑)、乗りかかったさっきのゲスの案件もそうだし、タイアップやアライアンス系のビジネスもそもそもやっていたこともそうだし、誰かやんなきゃいけないんだったら自分がやりますっていう。決して嫌なわけではないんですけど(笑)、自分でやろう!って手を挙げたというよりは、今のニーズのなかからこれを形にしていこうと。

なるほど。

 まだ半年も経っていないんですけど、とはいえ簡単じゃないから、ものすごい試行錯誤を繰り返しながらやっていて。そういう意味では本当に日々勉強で、まだ何かポリシーを語れるようなところにはまったく到達していなくて申し訳ないんですけど。だって、本当にアーティストマネージメントってすごいなと思っていて。ものすごくわかりやすく言うと、レーベルだとCDって盤面を作ったものが73掛けって決まっていて、できあがった方程式のなかにポコって入れたらババって計算式が出るものが、こっちに来たら、物販ひとつとっても、原価20%で作れるものもあれば、これは50%かかっちゃうんですよみたいな振れ幅もあれば、もうね、利益の出し方が1件1件全部違って方程式がないから、今は本当に経理的なシステムを作るところから勉強しているという感じなんです。やりながら、本当に1件1件手探りで進めている感じですね。

CENTROの3本の軸

360度のなかでも、マネージメントを軸とした会社ということになりますか?

 いや、大きな背骨としてはマネージメントと、eコマースを中心にしたマーチャンダイジングのセクションと、あとワーナーミュージック・ジャパンのなかにあったタイアップのチーム。だからマネージメント1本ではなくて、その3本軸でやっていくところにしようという概念ですね。

マネージメント、マーチャンダイジング、タイアップ、その3つが軸だと。

 もっと言うと、マネージメントって、感覚論としてレーベルの人間と違うなと思うのは、アーティストの人生を背負うわけじゃないですか。レコード会社ってやっぱり本当の意味ではアーティストの人生みたいなところを背負ってはいない。これはもう仕方ないと思うんですよ、ビジネスの形態が違うから。だからこそ、そこのリテラシーはまだ自分のなかで低いのでビジネスの中心とは言えないなと思っていて。そういう意味で、どれも同列なんですね。物販に関しても、もともと僕、出自がソニークリエイティブで、マーチャンダイジングで育った人間だったんで。それは得意ジャンルではあるから、もう一回そこを勉強し直して、ちゃんとそこでも売り上げを立てていきたいなと思っていますね。

鈴木竜馬流ヒットの方程式

鈴木さんはアンボルデで、エッジーなものをメインストリームに何度も押し上げてきました。そこにもし方程式があるとするならば、どういったものでしょうか?

 これはもう本当に偉そうなことを言えるあれもないんですけど、あるとしたら、ターゲットを明確にするということと、画的にも強い人たちとやっているっていうのはありますね。ゲスの極み乙女。は、最初音楽を聴いたときにめちゃめちゃいいなと思って音から入ったんですけど、観たときにあの4人だったんでこれは絶対にやったほうがいいと思って。そういう意味では、うちはロックミュージシャンが多かったりするんですけど、とはいえテレビにもすごくお世話になっているアーティストが多くて。これってたぶん稀有なレーベルだと思うんですけど、ロックのレーベルにしてはうちらって年末忙しいんですよ。たいがい、幕張や大阪通いしながら、レコ大も行くし紅白も出るっていう。それってやっぱりビジュアルがいいアーティストじゃないとできないことだと思っていて。みんなが1人1台、へたしたら2台、スマホを持っていて、何から入るかってYouTubeから入ってきたりする時代においては、やっぱりそこはすごく大切にしたいし、それがあると強い。アンボルデっていうレーベルの概念としては、音も最高にエッジが効いているんだけど、画的にもポピュラリティがある人がいいなっていう。

1+1が2になるんじゃなく、くっつけることによって、より立体的な事象を作っていくことができるプロデューサーでありたい。

V字回復中の今の音楽業界

音楽業界に破天荒な人がいなくなってきたと言われていますけど、とはいえ鈴木さんのように元気な人もいるじゃないですか。これから入ってきたいと思っている若者たちに何かメッセージはありますか?

 方向性の違う観点で2つあります。1つは、単純にレコード業界にいる人間でも「最近CDが売れないんで」とか逆風みたいなことを言う人が多いですが、そもそもまず海外では、ソニーがこないだ過去最高収益を発表し、ワーナーミュージックも過去最高収益を発表して。もちろんサブスクっていうのが大きいんですけど、ものすごい勢いでV字回復しているんですよね。これって90年代後半のバブル期の成長過程の斜めのラインより群を抜いたV字で。ということでいうと、今音楽業界に何が起きているかというと、もうオラオラですよ(笑)。

あははは!

 日本だってそう。さっき言ったように1人1台これ(スマホ)を持ってて、パンと押して、懐かしい曲にも今の曲にもすぐにアクセスできるような環境が整っている。要するに音楽を聴くことに対して、ものすごくいいシチュエーションが整っているわけじゃないですか。だから音楽業界自体はいい感じで盛り上がっていくと思うんですよ。とはいえ、確かにおっしゃるように今はクラブに行ってもレコード会社の人は少ないっていうような、音楽を出している側と楽しんでいる側がちょっとすれ違っちゃったところがあるから。だから音楽が戻ってくるっていう今の環境を、こっち側の人たちもちゃんと理解したほうがいいですよね。今、すげえことが起きているんだと。

ですよね。

 あとスーパースターはもっといっぱいいたほうがいいですよね、業界に。僕らはあくまでバックヤードの人間じゃないですか。そういう意味で昔は何かお話ししてくれませんか?みたいなことって基本的には遠慮していたんです、アンボルデを作る前は。ただ、これだけ情報が分散化されて、いろいろなメディアというか接点があるといったときに、これは伝えなきゃダメだなと思って、そこからインタビューなどにも応えさせていただくようにして。さっき言ったスーパースターになろうと思っているわけではないですが、そこは個人的にはオラオラやっていきたいですね。ちゃんと発信して考えを伝えるってことをやって、たまたまインタビューを読んで、あ、そんなことを思って音楽業界をカッコ良くしようとしている人がいるんだって感じてくれる人がいたらいい。こういうことをみんなでやっていくことが大切かもしれないですね。

しかも今、音楽業界はV字回復中なんだから、なおさらそれを伝えたいですよね。

 そう。V字で行ってるんだからもっとみんなオラオラ行ったほうがいい(笑)。音楽業界として気合いを入れていきたいですね。

PROFILE

鈴木竜馬

1969年、東京生まれ。東海大学文学部卒業。1993年にソニークリエイティブプロダクツに入社、97年に退社後、世界各国を旅する。99年にワーナーミュージック・ジャパンに入社。2010年にunBORDEのレーベルヘッド、14年に執行役員に。17年10月に設立された360度ビジネスの新会社CENTROの代表取締役に(ワーナーミュージック・ジャパン執行役員兼任)。

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