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「音楽著作権」バイブル

2016年01月09日 (土) 「音楽著作権」バイブル

第1回 アーティスト活動から生まれる権利

 今回から音楽著作権に関する新シリーズがスタートします。 このシリーズでは、アーティストが持つ様々な権利を理解し、 それらの権利を確保する方法や確保した権利をビジネスに活かす方法を学びます。 将来音楽業界でアーティストのマネージャーとして働きたいと考えている人を 対象にした初級講座ですが、新人マネージャーもぜひ読んでください。

今回のポイント


(1)アーティストがコンサートやレコーディングや作詞・作曲などの活動を行うと著作権法上の諸権利が発生する。
(2)アーティストはタレントとして「パブリシティ権」という権利も取得する。

アーティスト活動の種類と権利

 アーティストは、単に歌を歌ったり楽器を演奏したりするだけではなく、作詞や作曲や編曲をしたり、テレビや映画に役者として出演したり、レコーディングやイベントのプロデュースを行ったりと、様々な活動を行います。そして、それらの活動にともなって著作権法上の種々の権利が発生します。
 アーティスト活動によって発生する権利は、活動別におおむね次のように分類することができます(表1)。

※上記の表の「著作隣接権」には「実演家人格権」と「報酬請求権」が、「著作権」には「著作者人格権」が含まれるものとします。

 このように、アーティストにはその活動にともなって「著作隣接権」や「著作権」という著作権法上の権利が発生します。これらの権利は細分化された多くの権利の束で構成されています。なお、この表で「実演」や「創作」や「プロデュース」活動を中分類と小分類に細分化したのは、分類ごとに著作権法上の扱いや商習慣が異なる場合があるからです。
 アーティストは著作権法上の権利のほかに、タレントとして「顧客吸引力」という商業的価値が生じるため、その氏名や肖像等を排他的に利用する権利である「パブリシティ権」を有します。これは、専用の法律によって規定されている権利ではなく、タレントやスポーツ選手などが起こした裁判の判決の積み上げによって確立された権利です。
 ところで、著作隣接権や著作権は「知的財産権」という大きな権利に分類されます。知的財産権は、人間の知的な創作活動によって生み出されたものを保護するため、その創作者に対して与えられる独占的な権利です。これにより、他人はその創作物を無断で使うことができなくなります。また、創作者は、その創作物を使いたい人に許諾を与え、その対価を得ることができます。音楽ビジネスも知的財産権という権利のうえに成り立っています。
 知的財産権には以下のような権利が含まれます(表2)。

実演と権利

 次に、アーティスト活動と権利の関係を具体的に説明します。
 アーティストが歌ったり演奏したり演技したりすることは、著作権法上の「実演」に該当し、実演を行うと自動的に(何らの手続きを要せずに)「実演家」としての権利が与えられます。
 実演家の権利には、「実演家人格権」「著作隣接権」「報酬請求権」の3つがあります。
 「実演家人格権」は、CD等に実演家の名前を表示するか否か、表示する場合はどういう名前にするかを決定する権利である「氏名表示権」と、行った実演について実演家の名誉・声望を害するような改変を受けない権利である「同一性保持権」の2種類で構成され、ともに実演家の人格的利益を守るための権利です。実演家人格権は他人に譲渡したり、放棄したりすることができません。
 「著作隣接権」は、生の実演を放送したり録音したり、録音した実演を複製したりネットで配信したり、その他様々な形態で利用することを許諾する権利で、「録音権」「放送権」「貸与権」「送信可能化権」などの権利で構成されています。著作隣接権は他人に譲渡することができます。
 「報酬請求権」は、商業用レコード(市販の目的をもって製作される録音物)を放送でかけたり発売して一定期間経過後にレンタルしたり、録音物を私的使用目的でデジタルコピーしたときなどに、実演家がそれらの行為を禁止できない代わりに、報酬や補償金を請求することができる権利です。報酬請求権は他人に譲渡することができます。

創作と権利

 音楽作品を創作すると著作権法上、作詞者と作曲者に音楽の著作物の「著作者」としての権利が自動的に与えられます。また、その音楽作品の歌詞を翻訳したり楽曲を編曲したりすると二次的著作物の著作者としての権利が発生します。
 エッセイや小説や講演なども「言語の著作物」として、それらの著作者に著作権法上の権利が与えられます。インタビューや対談などで口述した内容に創作性が認められれば、それも言語の著作物に該当します。
 著作者の権利には、「著作者人格権」と「著作権」があります。
 「著作者人格権」は著作者の人格的な利益を保護するもので、(1)創作した著作物を公表するか否か、公表する場合はいつどのように公表するかを決める権利(公表権)、(2)著作物の公衆への提供・提示に際し、著作者名を表示するか否か、表示する場合はどのような名前にするかを決定する権利(氏名表示権)、(3)著作物のタイトルや内容を著作者の意に反して改変されない権利(同一性保持権)の3つの権利から構成されています。著作者人格権は他人に譲渡したり、放棄したりすることはできません。
 「著作権」は著作物を様々な形で利用することを許諾する権利で、「複製権」「演奏権」「公衆送信権」「貸与権」などの権利で構成されています。著作権が制限される利用形態については、補償金を請求する権利が生じる場合があります。著作権は他人に譲渡することができます。
 実演家と著作者の権利の詳細については、今後詳しく解説します。

プロデュースと権利

 レコーディングに関するプロデュース業務を行う音楽プロデューサーの行為自体には著作権法上の権利は発生しません。しかし、プロデュース業務に付帯して、演奏を行ったりバックコーラスを担当したりすれば実演家としての権利が発生し、作詞・作曲をしたり、編曲をしたりすれば著作者としての権利が発生します。マネージャーは、自分が担当するアーティストがほかのアーティストのレコーディングのプロデュースを引き受けた場合、その行為の一環として実演や創作も行ったかを確認し、行った場合は、それにより発生した権利を確保するための手続きを行う必要があります。
 イベントのプロデュースに関しても、それ自体に著作権法上の権利は発生しませんが、そのイベントで演奏などを行えば実演家の権利が生じます。
 なお、映画のプロデューサーは、「映画の著作物」の制作を担当する者として映画の著作物の著作者になり得ます。

ダンス等の振付と権利

 ダンスの振付に著作物に足る創作性が認められれば、「舞踊の著作物」として振付師に著作者としての権利が発生します。 そして、その振付で演じる人には実演家としての権利が発生します。

映画の監督・ミュージカルや演劇の演出と権利

 劇場用映画の監督やテレビ映画の演出家は「映画の著作物」の著作者に該当します。また、ミュージカルや演劇などで演出を担当する者には、実演家としての権利が発生します。

タレントとしての権利

 タレントとしては「パブリシティ権」という権利があります。
 パブリシティ権は前述したように法律に明文化された権利ではありませんが、2012年に最高裁判所がその権利の存在を認めたことにより、権利として確立されたといえるでしょう。
 これは、光文社発行の週刊誌『女性自身』の「ピンク・レディーdeダイエット」と題する記事中にピンク・レディーが映っている写真を掲載したのはパブリシティ権の侵害だとしてピンク・レディーの元メンバーが光文社に対して損害賠償を求めた裁判(いわゆる「ピンク・レディー事件」)の上告審で、ピンク・レディーの上告は棄却されたものの、パブリシティ権について最高裁として初めてその意義や侵害の判断類型を示すなど、画期的な判決となりました。
 それによれば、肖像等の持つ顧客吸引力を排他的に利用する権利(パブリシティ権)を人格権に由来する権利であるとしたうえで、もっぱら肖像等の持つ顧客吸引力の利用を目的とするといえる以下の3つの類型についてパブリシティ権を侵害する行為であると判断しています。
 (1)肖像等それ自体を独立して観賞の対象となる商品等として使用すること→ブロマイド写真やグラビア写真などが該当するものと考えられる。
 (2)商品等の差別化をはかる目的で肖像等を商品に付すこと→キャラクター商品などが該当するものと考えられる。
 (3)肖像等を商品等の広告として使用すること
 このようにパブリシティ権が認められたことにより、タレントやスポーツ選手など著名人の肖像等を使用した写真集を出版したり、キャラクター商品を販売したり、ほかの商品の広告に使用したりする場合は、本人の許諾が必要となります。

「実演」「実演家」とは

 ここから、それぞれの権利についての詳しい説明に入ります。今回は「実演」と「実演家」の意味についてです。

実演とは何か

 著作権法では「実演」の意義について次のように定義しています。

実演家
俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者及び実演を指揮し、又は演出する者をいう。(2条1項4号)

 このように、実演には「著作物を演じる行為」だけでなく、「著作物を演じないが芸能的な性質を有する行為」も含まれるので、奇術、曲芸、腹話術なども実演に該当します。「口演」とは朗読ではなく、落語・講談・漫才などの語りやしゃべりのことをいいます。
 実演はその道のプロフェッショナルが行うものだけにかぎられません。アマチュアが行う舞いや演奏や歌なども実演です。

「実演家」とは誰のことか

 次に、「実演家」の定義について見てみましょう。

実演
著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)をいう。(2条1項3号)

 ここで注意すべきは、「実演を行う者」だけが実演家ではなく、「実演を指揮、演出する者」も実演家であることです。したがって、オーケストラの指揮者や舞台の演出家も実演家なのです。
 これは、指揮や演出という行為自体が実演なのではなく、演奏家や俳優などに対し自らの意図するところを指図して実演を行わせる者は、実際に演奏したり演劇的に演じたりする者と対等であると評価して、実演家の地位を与えているのです。
 また、定義では「俳優」や「歌手」など職業が列記されているので、職業として実演を行うものだけが実演家になり得るものと考えがちですが、そうではありません。アマチュアであっても、実演を行えばその実演に関する実演家となります。
 逆に、プロの実演家であっても、その人の行為がすべて実演になるわけではありません。実際に行った行為が実演に該当するときに、その実演についての実演家になるということです。たとえば、俳優が映画でマラソンのシーンを撮影するために走るのは実演ですが、単にマラソン大会に出場して走るのは実演ではないので、その行為については実演家にはなりません。

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