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「音楽著作権」バイブル

2016年03月09日 (水) 「音楽著作権」バイブル

第2回 実演から生まれる権利

 今回から、様々なアーティスト活動から生まれる権利を活動の種類ごとに取り上げ、 詳しく解説します。最初は「実演」活動から生まれる権利です。 前回解説したように、著作物を演じること(著作物を演じないが 芸能的な性質を有するものを含む)を実演と言い、 実演を行う者や実演を指揮したり演出したりする者を実演家と言います。 実演を行うと、実演家に著作権法上の権利が発生します。

今回のポイント


(1)実演を行うと「著作隣接権」が発生し、実演家がこれを専有します。
(2)実演家には「実演家人格権」という人格権も与えられています。

著作権と著作隣接権

 著作権法では、「著作物」の創作者である「著作者」に「著作権」という権利を与えて著作物を保護しているだけでなく、著作物の利用に密接にかかわり、著作物を世に広めることに貢献し、かつ著作物の創作行為に準じた創作的な行為を行っているものと評価できる「実演」「レコード」「放送」「有線放送」も保護しています。そのために、その実演を行った「実演家」、そのレコードの原盤を制作した「レコード製作者」、その放送を行った「放送事業者」、その有線放送を行った「有線放送事業者」に対し、著作権に隣接した権利という意味の「著作隣接権」という権利を付与しています。
 ただし、実演やレコードなどの個々の客体(対象物)について、それが著作物の利用を伴っているか、あるいは、著作物の創作行為に準じた創作的な行為があったか、といった要素は、保護の要件として考慮されません。

実演家に与えられる著作権法上の権利

 実演家が有する著作隣接権は実演家の経済的利益の保護を目的とした権利(財産権)ですが、実演家にはそのほかに、実演家の人格的利益の保護を目的とした権利(人格権)として「実演家人格権」という権利も与えられています。
 また、著作隣接権が、実演等の利用を禁止することのできる強い権利(このような権利は「許諾権」や「禁止権」などと呼ばれる)であるのに対し、許諾権や禁止権のない「報酬請求権」と言われる権利も実演家は有しています。
 これらの権利はさらに細分化された権利から成り立っています。

実演家人格権

 実演家人格権は、実演家の人格的な利益を保護するためのもので、他人に譲渡したり放棄したりすることはできません。ただし、実演の利用許諾契約において、実演家が実演家人格権を行使しないとする条項(実演家人格権不行使特約)を盛り込むことは有効とされています。
 実演家人格権は次の2つの権利から成り立っています。

(1)氏名表示権
 「氏名表示権」は、実演が利用されるときに、その氏名もしくは芸名などを実演家名として表示し、または実演家名を表示しないことを決める権利です。
 CDのジャケットに歌手の名前が表示されたり、映画のエンディングロールに俳優の名前が表示されたりすることの法的根拠が、この氏名表示権です。
 実演を利用する側は、すでに表示されている実演家名をそのまま表示すれば、氏名表示権の侵害にはなりません。ただし、利用する前に実演家から氏名表示について特別に注文があった場合は、原則としてそれに従う必要があります。
 また、実演家の人格的利益を損なう恐れがない場合や、公正な慣行に反しない場合は、氏名表示を省略することができます。

(2)同一性保持権
 「同一性保持権」は、実演家が自己の名誉・声望を害する実演の変更、切除その他の改変を受けない権利です。たとえば、歌や演奏をわざとへたに聴こえるように加工したり、女優の顔を不細工に変形させたりして利用すると同一性保持権の問題になります。
 実演の改変が名誉・声望を害するかどうかは客観的に判断されるべきものです。そういう意味では、実演家の同一性保持権は、今後解説をする予定の「著作者人格権」のなかの同一性保持権にくらべるとかなり弱い権利と言えるでしょう。
 なお、実演の性質やその利用目的などに照らしてやむを得ないと認められる改変や、公正な慣行に反しないと認められる改変については、同一性保持権は適用されません。

著作隣接権

 著作隣接権は、実演家の経済的な利益を保護するための権利で、他人に譲渡することができます。実演家はその実演に関して著作隣接権を「専有」します。専有とはその者だけが有する、つまり「排他的に有する」ということです。なお、レコードに固定されている実演に関する著作隣接権は、多くの場合、レコーディング契約によりレコード製作者に譲渡される実態があります。
 ところで、他人の著作物を真似ると、真似された著作者の著作権を侵害することになるのに対し(いわゆる盗作)、他人の実演を真似ても、真似された実演家の著作隣接権を侵害したことにはなりません。
 著作隣接権は、以下の権利から成り立っています。

(1)録音権・録画権
 「録音権」は実演を録音する権利であり、「録画権」は実演を録画する権利です。コンサートや放送などでの実演を無断で録音したり録画したりすると、私的使用などの例外の場合を除き実演家の録音権や録画権を侵害することになります。
 ところで、「録音」と「録画」について、著作権法では次のように定義しています。

録音
音を物に固定し、又はその固定物を増製することをいう。(2条1項13号)
録画
影像を連続して物に固定し、又はその固定物を増製することをいう。(2条1項14号)

 この定義により、録音権と録画権は、生実演を収録する行為だけではなく、実演が収録されている録音物や録画物をコピーする行為にもおよぶことになります。
 なお、録画の定義には、「影像を連続して」という要件が入っているので、実演中のアーティストを写真撮影することについては、録画権は働きません(アーティストを写真に撮って利用することは「パブリシティ権」の問題である)。また、実演が録画されているフィルムの1コマをコピーすることも録画には該当せず、録画権は働きません。
 録音権と録画権には制限が加えられ、許諾を得て映画の著作物に録音・録画された実演については、これを、録音物としてコピーする場合を除き、適用しないと規定されています。これは、実演家の録音権・録画権を有する者が、実演を映画の著作物に録音・録画することをいったん許諾すると、その録音・録画物のコピーについては、映像をともなわない媒体に録音する場合を除き、録音権や録画権が働かないという意味です。
 著作権法上「映画」には劇場用映画にかぎらずDVDやブルーレイなど録画物も含まれますので、ライブ実演を録画物として発売することを許諾すると、これにより収録された実演をコピーしてあらゆる種類の録画物を製造することについて実演家の録音権・録画権が働かなくなってしまいます。ただし、録画物から音だけを抜き出してサントラ盤などの録音物として発売する場合は、実演家の録音権が復活します。
 なお、コンサートをテレビで放送することを許諾した場合は、放送局はその実演を録音・録画することができます。しかし、これはあくまでも放送のための録音・録画が可能になるだけなので、放送局がこれをDVDなどのパッケージ商品として発売しようとすれば、改めて実演家の録音権・録画権の許諾が必要になります。

(2)放送権・有線放送権
 「放送権」は実演を放送する権利であり、「有線放送権」は実演を有線放送する権利です。ただし、放送することを許諾した場合には、その放送を同時に有線放送することについて有線放送権が働きません。
 なお、許諾を得て録音・録画されている実演や、許諾を得て映画の著作物に録音・録画された実演(その複製物のうち録音物に録音されている実演を除く)については、放送権と有線放送権が適用されません。
 著作権法では、実演を放送することについて許諾を得た放送局は、その実演を許諾の対象となる放送以外にも一定の範囲で利用できることを定めていますが、これをわかりやすく整理すると、以下のようになります。

放送の許諾を得た実演を許諾に係る放送以外に利用できる範囲
1.許諾の対象となる放送のための録音・録画
2.許諾を得た放送局における再放送(リピート放送)…実演家に報酬請求権あり
3.許諾を得た放送局が作成した録音・録画物の提供を受けて行う放送(テープ・ネット放送)…実演家に報酬請求権あり
4.許諾を得た放送局から放送番組の提供を受けて行う同時放送または異時放送で上記3以外のもの(マイクロ・ネット放送)…実演家に報酬請求権あり

 放送局のこのような権利は、「出演契約に別段の定めがないかぎり」という条件付きで与えられているので、出演契約で実演を録音・録画することを禁止したり、リピート放送やネット放送を禁止あるいは制限したりすることは可能です。しかし、実際には、実演家が出演契約時にそのような条件をつけることはほとんどないので、放送番組に出演すると、この表にあるような二次的な利用まで認めたことになります。

(3)送信可能化権
 実演家の著作隣接権には、実演を送信可能化する権利である「送信可能化権」もあります。実演を送信可能化するとは、実演のデータをサーバーにアップロードし、アクセスがあり次第自動的に送信することができる状態に置くことです。この場合、サーバーにデータを蓄積する形式であれ、蓄積しない形式であれ、送信可能化することに変わりはありません。
 なお、実演家には著作者に認められている「公衆送信権」がないので、公衆送信行為については権利が働かないことになります。
 送信可能化権は、許諾を得て録画されている実演や、許諾を得て映画の著作物に録音・録画された実演(その複製物のうち録音物に録音されている実演を除く)については、適用されません。

(4)譲渡権
 「譲渡権」は、実演をその録音物や録画物の譲渡により公衆に提供するときに働く権利です。ただし、許諾を得て録画されている実演や、許諾を得て映画の著作物に録音・録画された実演(その複製物のうち録音物に録音されている実演を除く)については、適用されません。
 また、譲渡権が適用される録音物や録画物であっても、一度適法に譲渡されたものについては譲渡権が消尽し、その後の譲渡については譲渡権がおよばないことになっています。同じ品番の製品であっても盗難品は適法に譲渡されたものではないので、譲渡権が生きています。

(5)貸与権
 実演が収録されている商業用レコードを貸与により公衆に提供することについては「貸与権」という権利が働きます。「商業用レコード」とは、市販の目的をもって製作されるレコードの複製物(映像を伴うものは含まれない)を言います。
 貸与権は商業用レコードの貸与にかぎって認められているので、エンハンストCDなど映像部分を含む固定物やレンタル専用CD、また、ネットからダウンロードした音源の固定物など商業用レコードに該当しないものに収録されている実演については、貸与権がありません。
 また、貸与権は、発売日から1年以上経過した商業用レコード(これを「期間経過商業用レコード」という)については消滅します。しかも、「複製されているレコードのすべてが当該商業用レコードと同一であるものを含む。」と規定されているので、たとえば、あるアルバムをCDでまず発売し、その半年後にアナログレコードで発売した場合、このアナログレコードについての貸与権存続期間はCDの発売日から1年なので、アナログレコードの発売日から起算すると半年になります。ただし、アナログレコードに1曲でもCDと異なる音源が収録されていれば、そのCDとは別の商業用レコードになるので、アナログレコードの発売日から1年間貸与権が存続することになります。
 なお、期間経過商業用レコードの貸与については、「貸与報酬請求権」という報酬請求権が発生します。報酬請求権については次号で解説する予定です。

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