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「音楽著作権」バイブル

2018年01月18日 (木) 「音楽著作権」バイブル

第13回 音楽出版社と音楽出版ビジネス

 アーティストが有する権利に関する解説は前回でいったん終了し、 今回は、あなたが担当するアーティストが作詞や作曲も行う場合、 必ずおつきあいすることになる「音楽出版社」の話をします。 音楽出版社は、「プロダクション」「レコード会社」とともに 音楽業界を構成する3大業種なのですが、 ほかの2業種とくらべ地味な存在ということもあり、 その実態を詳しく知る人は少ないのではないでしょうか。

今回のポイント


(1)音楽著作権を管理し、管理楽曲のプロモーションを行うのが音楽出版社です。
(2)プロモーションの最終形は、その楽曲を「スタンダードナンバー」にすることです。

音楽出版社とは

 「音楽出版社」と聞くと音楽関係の本を出版する会社をイメージするかもしれませんが、そうではありません。音楽の著作権を管理し、著作権を管理している楽曲(管理楽曲)のプロモーションを行う会社が音楽出版社なのです。管理楽曲が利用されれば著作権使用料が発生するので、それを徴収して著作者(作詞者と作曲者)と分け合うのです。
 音楽出版社のことを英語で「MUSIC PUBLISHER」と言いますが、「PUBLISH」には、「出版する」という意味のほかに「世に広める」という意味もあるのです。つまり、音楽出版社は、「音楽を世に広める仕事をする会社」なのです。そして、音楽出版社の行うこのようなビジネスを「音楽出版ビジネス」と言います。
 なお、音楽関係の本を出版する会社のことは、音楽出版社と区別するため「楽譜出版社」と言う場合があります。音楽関係の本を出版している音楽出版社も存在します。

音楽出版ビジネスとは

 音楽出版ビジネスとは、音楽出版社が著作者(作詞者と作曲者のことで、音楽出版業界では「作家」と言うことが多い)から楽曲の著作権の譲渡を受け、その楽曲を世に広める活動を行って楽曲の利用を促進させ、これにより発生した著作権使用料を作家と配分するビジネスです。「音楽著作権ビジネス」と言う場合もあります。
 音楽出版社について、JASRACの定款では次のように定義されています(アンダーラインは筆者)。なお、JASRACは音楽出版社のことを「音楽出版者」と称しています。
 「音楽出版者=著作権者として、出版、レコード原盤への録音その他の方法により音楽の著作物を利用し、かつ、その著作物の利用の開発を図ることを業とする者をいう。」
 ここでのポイントは3つあります。
(1)著作権者として
 音楽出版社となるためには、作家またはその権利承継者と著作権譲渡契約を締結し自らが著作権者となること、つまり楽曲の利用許諾権を保有していることが必要です。つまり、単に著作権者から著作権の管理の委託を受けるのではなく、自らが著作権者になる必要があるのです。
(2)出版、レコード原盤への録音その他の方法により音楽の著作物を利用し
 楽譜の出版やレコード(CDなどの録音物のこと)の発売は音楽の一次的な利用であり、これにより楽曲が発行され、世に送り出されます。つまり、楽曲が世に広まるきっかけを作ることも音楽出版社の要件なのです。
(3)その著作物の利用の開発を図る
 世に出た楽曲がヒットし多くの人に親しまれ、また種々の形態によって利用されるようにプロモーション活動を行い、これにより著作権使用料の増収に結びつけるのが重要な業務です。

音楽出版社の役割

 音楽出版社の収入源は著作権使用料です。利用者や著作権等管理事業者や外国の音楽出版社などから受領した著作権使用料は作家との契約に基づいて分配され、残った取り分が音楽出版社の利益となります。音楽出版社取り分の一般的な割合は、日本曲(邦楽)の場合、受領額の3分の1?2分の1です。つまり、作家は音楽出版社と契約することによって自己の取り分をその分だけ減少させることになるのです。
 作家がそれでも音楽出版社と著作権譲渡契約をするのは、著作権の管理や楽曲のプロモーションは専門家に任せたほうがいいと考えるからです。もし、これらを自分で行うことになれば、プロモーション業務に加え、利用の許諾、訳詞・編曲の許諾、請求書の発行、入金のチェック、支払いの催促などの煩雑な作業を抱え込むことになるため、新たな楽曲の創作活動に振り向ける時間が減少し、作家本来の業務に支障が生じることになります。そこで作家は、創った楽曲の著作権管理やプロモーションを音楽出版社に任せ、自らは新たな楽曲の創作に専念する方法を選択するのです(作家がJASRACと直接契約し管理を委託することもできるが、プロモーション業務までは委託できない)。ここに音楽出版社の存在価値が生まれ、「創作と管理の分離」とも言うべき一種の分業体制が成立するのです。もっとも、今の音楽業界では、音楽出版社と契約することが作家への新曲の発注(創作依頼)の条件となっており、これを拒否すれば仕事が来ないという現実もあります。

音楽出版社の業務

 日本の音楽出版社のなかには外国曲(洋楽)の日本地域における管理を行っている会社もたくさんありますが、ここでは紙幅の関係で日本曲に限定して解説します。

(1)楽曲の獲得(著作権譲渡契約の締結)
 日本曲をレパートリー(管理楽曲)にするには、その曲を作詞・作曲した作家と著作権譲渡契約を締結し、著作権を獲得することが必要となります。
 作家に著作権譲渡契約を申し込むにはその理由が必要となりますが、それは多くの場合、次の4つのいずれかです。
 (1)作家と著作権の譲渡に関する専属契約を結んでいる。
 (2)(○○というアーティストの次回新譜など)具体的な利用方法を提示のうえ新曲の創作を依頼する。
 (3)未発表楽曲がある場合にその利用について(○○の実演による原盤を制作するなど)具体的な提案を行う。
 (4)レコード発売予定の楽曲について(○○テレビの△△という番組の主題歌として売り込むなど)具体的なプロモーション案を提示する。

 著作権譲渡契約のポイントとしては以下のような事項があげられます。
1)使用する契約書のフォーム
 日本の音楽出版社の業界団体である「日本音楽出版社協会」(MPA)が日本の作詞家・作曲家・編曲家・訳詞家の団体で組織している「日本音楽作家団体協議会」(FCA)と協議して作成した「FCA・MPAフォーム」という統一フォーム(契約書の表題は「著作権契約書」)が広く普及しており、ほとんどの音楽出版社がこのフォームを使用して契約しています。統一フォームを使用するメリットは、契約の条文とその解釈が統一されているため締結時に注意すべき事項が限定されるので、安心かつ迅速に契約できることです。以下この統一フォームに基づいて解説します。
2)契約期間
 5年、10年または著作権存続期間中の3種類が一般的です。著作権存続期間中の契約というのは、その楽曲の著作権存続期間(原則として著作者の死後50年)が満了するまでの契約のことです。
 5年や10年契約のようにあらかじめ契約満了日が決まっている契約(このような契約は「有期限契約」と言われている)の場合は、自動延長規定があり、期間満了の3ヶ月前までに文書により相手方に契約終了の意思表示を行わないかぎり、契約がある期間(1年、5年あるいは最初の契約期間と同じ期間であることが多い)自動的に延長されることになり、以後も同様の扱いになります。
 また、著作権存続期間中の契約など10年を超える契約の場合、発生する著作権使用料が少額であるときは、最初の10年が経過後、音楽出版社は作家の要請に基づき、契約楽曲の再活性化について協議しなければならないことになっています。そして、それでも発生する著作権使用料があらかじめ設定した金額に満たないときは、作家は契約を中途で解約することができます。
3)契約対象地域
 日本を含む全世界が対象となります。
4)譲渡を受ける著作権の内容
 著作権法27条(翻訳権・翻案権等)および28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)も譲渡の目的として特掲されているので、財産権としての著作権すべてが譲渡の対象となります。
5)著作権管理の方法
 契約した楽曲の著作権の管理をどの著作権等管理事業者に委託するか、あるいは、音楽出版社が自ら管理(自己管理)する区分を設けるかを決めます。
 まず、音楽の支分権または利用形態をJASRACの規定に合わせて以下の11に分類します。
 (1)演奏権等、(2)録音権等、(3)出版権等、(4)貸与権、(5)映画への録音、(6)ビデオグラムへの録音、(7)ゲームに供する目的で行う複製、(8)広告目的で行う複製、(9)放送・有線放送、(10)インタラクティブ配信、(11)業務用通信カラオケ
 次に、これらの区分についての管理方法を以下の4パターンのなかから決めます。
 ・すべての区分を1つの著作権等管理事業者に委託する。
 ・すべての区分を複数の著作権等管理事業者に振り分けて委託する。
 ・ある区分を自己管理し、ほかの区分を1つの著作権等管理事業者に委託する。
 ・ある区分を自己管理し、ほかの区分を複数の著作権等管理事業者に振り分けて委託する。
6)著作権使用料の分配率
 著作権等管理事業者が徴収して音楽出版社に分配した著作権使用料や音楽出版社が自ら徴収した著作権使用料のうちの作家への分配率を決めます。
 分配率はほとんどが以下の4パターンのいずれかです。
(1)作詞者:25%、作曲者:25%(音楽出版社取り分:50%)
(2)作詞者:33%または3分の1、作曲者:33%または3分の1(音楽出版社取り分:34%または3分の1)
(3)作詞者:25%、作曲者:33%または3分の1(音楽出版社取り分:42%または12分の5)
(4)作詞者:33%または3分の1、作曲者:25%(音楽出版社取り分:42%または12分の5)
7)著作権使用料の支払い方法
 たとえば、毎年3月、6月、9月および12月の各末日を計算の締め切り日として著作権使用料の計算を行い、各締め切り日から60日以内に作家に支払います。同時に、著作権使用料に関する明細書を作家宛に送付します。

(2)著作権等管理事業者への届け出
 著作権譲渡契約の締結作業が終わると、契約した楽曲のタイトル、作家名、契約期間等を「作品届」に記載して著作権等管理事業者に届け出ます。

(3)外国地域での管理
 楽曲を外国地域で管理方法としては、?JASRACを通じてJASRACと管理契約を締結している外国の著作権管理団体に委託する方法と、?外国の音楽出版社とサブパブリッシング契約(内容の解説は省略)を締結する方法とがあります。?の場合、委託先は単に著作権使用料の徴収・分配を行うだけなので、楽曲プロモーションを期待する場合は?の方法をとることになります。

(4)楽曲プロモーション
 楽曲プロモーションには大きく分けて、(1)埋もれている楽曲を世に出す、(2)最初のレコードのヒットを目指す、(3)様々な形態での利用を促進させる、この3つが考えられます。そして究極の目的が、常にどこかで使われ、いつまでも生き続ける「スタンダード」あるいは「エバーグリーン」と呼ばれる楽曲にまで価値を高めることです。
 (1)の方法としては、楽譜やデモ音源を制作し、レコード会社やプロダクションなどに売り込むことです。楽曲によっては、CMソングとしてCM制作会社に話を持ち込むこともあります。
 楽曲は多くの場合レコードという形で世に出るので、(2)の最初のレコードを売るためのプロモーションが楽曲のプロモーションのメインになります。具体的には、ラジオ局にサンプル盤を持ち込んで番組でかけてもらうことや音楽専門誌の新譜紹介欄に「レコ評」を載せてもらうのがオーソドックスなやり方です。また、雑誌や新聞(スポーツ紙であれば芸能面、一般紙であれば夕刊・日曜版など)に記事として取り上げてもらう方法、テレビの芸能・音楽情報番組や歌番組への出演およびプロモーション映像の提供なども行われています。さらに、テレビ番組や映画の主題歌やエンディングテーマ、CMなどへの売り込みも行われます。
 (3)の代表的な例がカバーとCM使用です。カバーは、楽曲を創唱者以外のアーティストにレコーディングしてもらうことですが、もとの楽曲やカバーしたアーティストの新たな魅力を引き出す効果もあり、最近は頻繁に行われています。また、CM使用とは、既成楽曲をテレビCMなどのBGMとして使用してもらうことで、これは、楽曲の宣伝効果と著作権使用料の増収という2つの大きなメリットがあります。
 音楽出版社はこのようなプロモーション企画をレコード会社やCM制作会社などにプレゼンテーションするとともに、利用者からの問い合わせに即座に対応できるよう、管理楽曲に関する音源、歌詞等の資料や過去の利用状況、利用許諾条件等を整備しておきます。

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