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「音楽著作権」バイブル

2018年10月19日 (金) 「音楽著作権」バイブル

第16回 押さえておくべき著作権の基礎知識

そろそろこのシリーズも最終盤に差しかかってきました。 これまでの解説で、アーティストにとって 「著作権制度」がいかに重要なものか認識できたと思います。 そこで今回は、まとめの意味で、 著作権法に関する基礎的で重要な部分を、 音楽業界に関係する事項を中心に整理して取り上げます。

著作物とは何か

 著作権法第2条では、「著作物」について次のように定義しています。

第2条(定義)  一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

 この定義によれば、(1)思想または感情が入っていること、(2)創作的であること、(3)表現したものであること、(4)文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものであること、という4つの要件が満たされたものが著作物になります。

著作物にはどのようなものがあるのか

著作物を分類すると次のようになります。これ以外でも、上記の4要件を満たしていれば著作物になり得ます。

著作者の権利の内容

著作権は以下のような権利(支分権)から構成されています。各支分権の意味の解説は割愛します。

「実演」とは何か

「実演」の定義は次の通りです。

実演 著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)をいう。(2条1項3号)

 実演には「著作物を演ずる行為」だけでなく、「著作物を演じないが芸能的な性質を有する行為」も含まれるので、奇術、曲芸、腹話術なども実演に該当します。

「実演家」とは誰のことか

「実演家」については次のように定義されています。

実演家 俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者及び実演を指揮し、又は演出する者をいう。(2条1項4号)

 このように、「実演を行う者」だけが実演家ではなく、「実演を指揮、演出する者」も実演家です。したがって、オーケストラの指揮者や舞台の演出家も実演家に該当します。

実演家の権利の内容

 実演家が有する著作権法上の権利は次の通りです。

レコードとは

 著作権法では、レコードを「蓄音機用音盤、録音テープその他の物に音を固定したもの(音をもっぱら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)をいう。」と定義し、「無体物」としてとらえています(2条1項5号)。
 いっぽう、音楽業界でレコードというと、CDのように「音が固定されている物」、つまり「有体物」を指す場合がほとんどです。このように、同じ「レコード」でも著作権法と音楽業界ではとらえ方が異なっています。

レコード製作者とは

 著作権法では、「レコードに固定されている音を最初に固定した者」をレコード製作者と定義しています(2条1項6号)。レコードに固定されている音を最初に固定した者とは、レコードの原盤を制作した者であり、音楽業界でいうところの「原盤制作者」のことです。
 「レコード会社=レコード製作者」とは限らないので、注意が必要です。

レコード製作者の権利

 レコード製作者が有する著作権法上の権利には、「著作隣接権」と「報酬請求権」があります。いずれも譲渡可能な権利で、実際、レコード製作者がこれらの権利をレコード会社などに譲渡しているケースも多く見られます。

著作物等の保護期間

 著作権や著作隣接権は永久に存続するわけではありません。一定の期間が経過すると権利が消滅し、誰でも自由に利用することができるようになります。そのことが、新たな文化の創造につながるわけです。
 著作物や実演などの保護期間を表にすると次のページの表1のようになります。
 この表を見ればわかる通り、著作物の保護期間は、映画の著作物を除くと、著作物を公表する際、著作者名をどう表示するかで大きく変わってきます。つまり、実名で公表すると保護期間が一番長くなります。また、変名(筆名など)で公表しても、その変名が誰のものか一般にわかるような場合は実名と同じ扱いになります。

最近の著作権ニュースから

TPP11協定発効後の保護期間の延長について

 平成28年に成立した改正著作権法(以下「TPP12法」)は、TPP12協定が日本国について効力を生じる日から施行されることになっていたため、アメリカがこの協定から離脱したことにより、施行の見通しが立たなくなっていた。  しかし、今年になって、アメリカを除く11ヶ国(日本、カナダ、シンガポール、ニュージーランド、メキシコ、ペルー、チリ、オーストラリア、マレーシア、ベトナム、ブルネイ)によるTPP11協定が締結されたことを受け、TPP11が発効すればTPP12法が施行されることに今年の通常国会において決まった。  TPP11協定は、加盟11ヶ国うち6ヶ国が、それぞれ関係する国内法上の手続きを完了した旨を書面により寄託者に通報した日の後60日で発行する。本稿執筆時点では、メキシコ、日本、シンガポールの3ヶ国が国内手続きを完了していると聞いているが、そうであれば、あと3ヶ国が国内手続きを完了し、その旨を寄託者に通報すれば、その後60日でTPP11は発効し、同時にTPP12法も施行されることになる。それが年内なのが、来年になるのかはわからないが、いずれにしても近い将来施行されるものと思われる。  TPP12法の内容は以下の5点である。  (1)著作物等の保護期間の延長  (2)アクセスコントロールの回避等に関する措置  (3)損害賠償に関する規定の見直し  (4)著作権等侵害罪の非親告罪化  (5)配信音源の放送二次使用に対する使用料請求権の付与  ここでは、これらのうち音楽業界にとってもっとも関心の高いと思われる、著作物等の保護期間の延長を取り上げ、施行後の保護期間がどうなるか見てみる。表にすると下のようになる。  簡単に言えば、これまで「50年」だったところが「70年」に20年延長されることになる。しかし、「放送」と「有線放送」の保護期間については「50年」のままであることに注意してほしい。  また、TPP12法の附則15条2項により、旧著作権法時代の実演とレコード(1970年12月31日までのもの)でTPP12の施行時に旧法による著作権(旧法では実演(歌唱と演奏)とレコードを著作権で保護していた)が存するものに係る著作隣接権の存続期間は、旧著作権法によるこれらの著作権の存続期間の満了日が新著作権法による期間満了日の後になるときは、旧法による著作権の存続期間が適用される。ただし、その場合でも、新著作権法が施行されて70年(現在は50年)が経過すれば著作隣接権は切れる。

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