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無許諾音楽アプリ問題

2020年01月16日 (木) 無許諾音楽アプリ問題

写真右より、尾辻重信さん(株式会社イドエンターテインメント代表取締役、一般社団法人日本音楽制作者連盟理事)、高橋明彦さん(LINE MUSIC株式会社 取締役COO)

音楽の未来を救え!

「無許諾音楽アプリ」の問題点と対策

「Music FM」をはじめとする無許諾音楽アプリが蔓延している。それらは許諾を得ることなく勝手に曲を配信しているため、アーティストには一切還元されず、音楽業界に甚大な被害をもたらしている。無許諾音楽アプリ問題への対応は今、音楽業界の急務であるが、ここではその現状と対策について、日本音楽制作者連盟の尾辻理事と、LINE MUSICの高橋COOにお話しいただいた。

無許諾音楽アプリはとても悪質です。
アーティストと制作者の権利を攻撃して、音楽の価値をなくそうとしている。

10代の31%が 無許諾音楽アプリを使用

「Music FM」をはじめとした無許諾音楽アプリが蔓延しているということですが、今はどういう状況にあるんでしょうか。

高橋 かなり深刻な状況です。先日、レコード協会さんとともに説明会を開催しましたが、当社も実情を把握するためのアクションを進めていまして、「LINEリサーチ」を利用したアンケートを2018年に約20万人、2019年に約6万人の規模で行いました。結果を端的に言うと、全体では11%、10代では31%の人が、スマートフォンで音楽を楽しむときのファーストチョイスとして「Music FM」などの無許諾音楽アプリを使っている(図1)。この数字にはかなり危機感を持っています。

アーティストやプロダクション側としては、この事実をどうとらえていますか。

尾辻 肌感覚として、そこまでわかっていない、危機感の薄いアーティストも多いんじゃないかと思います。「Music FM」のような無許諾音楽アプリというものがあるということは知っていても、若者の31%がそれを使っていて、とても甚大な被害がある、ということにあまりリアリティがなかった。プロダクションとしても、そこまで大きな危機感は持っていなかったんじゃないかと思います。もちろん音制連(日本音楽制作者連盟)としても問題視はしてきましたが、違法対策はレコード協会さんに任せてきたのがここ数年です。もっと大きく動かなければいけないと思っていますね。

10〜50代に調査(2018年10月)。全体(228,613人)では11%が無許諾音楽アプリを利用し、特に10代全体(61,289人)では31%と、若年層ほど浸透していることがわかった。

音楽業界としての対策 〜アプリ等への削除申請〜

これまで無許諾音楽アプリにはどんなものがあったのでしょうか。

高橋 アプリ自体は2012年頃からありました。中高生の利用者が増えたのは2016年頃からですね。その多くは、海外のサーバーに無許諾でアップロードされた音源をストリーミングやダウンロードで配信するという仕組みのアプリです。開発自体は簡単なので、「Music FM」だけでなく、「Music Box」や「iLoveMusic」など名前を変えた同様のアプリが乱立しています。これらはほぼ無許諾音源のみを配信するアプリで、レコード協会さんがAppleやGoogleのアプリストアに削除申請をしています。さらに、YouTubeに公開された音源をダウンロードできるアプリもあります。こちらはYouTubeのAPI規約違反なので、やはり同様に削除申請をしています。

アプリストアに削除申請を出しても、対応が進まなかったんでしょうか。

高橋 GoogleやAppleのアプリストアに対しての削除申請はレコード協会さんが毎週チェックして行っています。Googleは1週間程度で削除してくれるそうですが、Appleに関しては開発者のメールアドレスを提供され、直接開発者とのやりとりがメールで必要になるため、結果的に削除までに1ヶ月以上かかったりする。その間にまた類似の無許諾音楽アプリが出てきて、いたちごっこになってしまう。難しいのは、たとえばニュースとして報じられて大きな社会問題となった「漫画村」とくらべると、「Music FM」はアプリなので、これまで実態があまり可視化されていなかったんです。それぞれのスマートフォンにダウンロードされたアプリで、こっそり使い続けられてしまう。AppleやGoogleのアプリストアにも土日や夜を狙ってこっそり公開されていたりする。それがTwitterやSNSで広まったりしている。そういう状況をなんとかしてほしい、迅速な削除と厳格な事前審査をしてほしいという話をしています。

図2:無許諾アプリの認知経路
無許諾アプリを使い始めたきっかけは?
無許諾音楽アプリをもっとも使用している層を抽出し(1,490人)、調査(2019年10月)。周りの友達や家族経由が過半数以上、音楽アプリでの検索からというのも多かった。
図3:アーティスト還元意識
普段お使いの音楽アプリやサービスが、どのような仕組みでアーティストにお金が払われているかを考えたことはありますか?
図4:普段お使いの音楽アプリやサービスが、アーティストにお金を支払っていないとしたら、今後のお気持ちにもっともあてはまるものは?
無許諾アプリ利用者のほとんどが意識はしておらず、還元されていると思っている人も多い。また、還元されていないとしても利用するという人が67%いた。(2019年10月調査)

「やってはいけないこと」と 伝えていく啓蒙活動が大事

尾辻 いろいろなプラットフォームに削除申請していくというのは、もちろんこれからもやっていかなきゃいけないし、必要だと思うんです。ただ、僕としてはそれだけではなく啓蒙活動が大事だと思います。

高橋 そうですね。ここまで深刻な状況になっている以上、アーティストやプロダクションから「これは問題だ」ということを言ってもらわないといけない。「自分たちのファンなら決して使ってほしくない」ということを積極的に表現していってもいいんじゃないかと思います。

削除申請のようなプラットフォームへの対策だけでなく、リスナーに訴えかけていくことが大事である。

尾辻 アーティストは一生懸命、命を削って曲を作っています。それが侵害されているのを黙って見ているようなマネージメントであってはならない。僕は日本人の良心の高さは世界に誇れるべきものだと思っています。そういう日本の国民性を信じたい。啓蒙活動をちゃんと続けて、無許諾音楽アプリがなぜダメなのかを広く伝えることによって、いろいろなことが変わっていくと思います。すぐに被害がゼロになるということはないと思いますが、少なくともアーティストの作品を扱っているマネージメントとしては、そういうことをやり続ける責任がある。

図5:無許諾アプリ非利用者に聞いた無許諾アプリのイメージ
無許諾アプリのイメージは?
有料のストリーミングサービス利用者と無許諾アプリであることを認知している層(601人)は、その違法性や開発元への不信感があり、10代ではその傾向が高くなることもわかった。(2019年10月調査)

高橋 啓蒙活動が大事だというのは私も思います。こうした無許諾音楽アプリを使うのは本当にダメなことだというメッセージを、今までちゃんと伝えることはできていなかった。音楽業界にとって苦しいことだということ、あなたの好きなアーティストが活動できなくなることになるかもしれないということまで、わかっていない人も多いと思うんです。

尾辻 子供に「万引きをしちゃいけない」と教えるのと同じように、「やってはいけないことだ」と伝えていく。それをやり続けるのがマネージメントの使命だと思います。

リスナーの意識の変化を促したい。

高橋 そうですね。もちろん、こうしたアプリが無許諾なものである、違法に運営されているものであるということを知ったうえで使っている人もいます。しかしその一方で、良い方向に変化してきている面も見えてきています。社内調査で、2016年頃に調べたときには、音楽にお金を払うことに対して「カッコ悪い」と考える意見が6割くらいありましたが、最近の調査ではそれが明確に減ってきています。サブスクリプションのサービスが伸びてきて、音楽以外でもNetflixやDAZNのようなサービスが浸透してきたことで、正しくお金を払わないと良質なものが手に入らないという意識が広がってきた。「Music FM」を使うことを非難するような書き込みもソーシャルメディアで見かけるようになりました。いわゆるネットリテラシーの高い人を中心に、少しずつ意見が変わってきています。

YouTubeやTikTokに関してはユーザーが無料で使うことができますが、これと「Music FM」はまったく違うものであるということも伝えていく必要がありそうですね。

尾辻 我々としては、正規のサービスなのか無許諾のアプリなのかという線引きで区分しています。YouTubeは一部例外があるにせよ基本的には、双方が理解したうえでレーベルが許諾した音源を提供しているサービスである。それに対して、無許諾音楽アプリはとても悪質です。我々が一番大事にしている音楽の価値を、アーティストと制作者の権利を攻撃して、なくそうとしている。放っておくと、どんどん良質な音楽を作る環境、もっと大袈裟に言えば、新しい音楽そのものがなくなってしまう。そのことをちゃんと訴えたいですね。

「アーティストは一生懸命、命を削って 曲を作っています。それが 侵害されているのを黙って見ている マネージメントであってはならない」

無許諾音楽アプリ対策は音楽業界が 一枚岩になってやるべき課題

今後の対策としてはどういったことがあげられますか。

高橋 AppleやGoogleとは話を進めています。あとは、無許諾アプリに出稿されてしまっている広告主に注意を促す必要もあると思います。こうしたアプリは広告費で運営している。広告主に対して働きかけることで、無許諾音楽アプリに広告が掲載されることがマイナスイメージになるようにアプローチしていきたい。

尾辻 しっかりした企業であれば、そこにも希望はあると思います。ちゃんと誠意をもって話せば聞いてくれるはず。スポンサーが降りていくということで、無許諾音楽アプリを出す側にもメリットがなくなるわけですから、そこに可能性はありますね。

高橋 あとはやはり啓蒙活動ですね。我々の調査でも、ユーザーがこうした無許諾音楽アプリを知ったきっかけは40%がアプリストアから、66%が友達や知り合いから教えてもらったということなんです(図2)。だから無許諾音楽アプリを使うのは悪いことであって、それを友達に教えるのも恥ずかしい、カッコ悪いことなんだという意識を広めていく必要性は、やはり高いと思います。

「無許諾音楽アプリを使うのは 悪いことであって、カッコ悪いこと なんだという意識を広めていく 必要性は、やはり高いと思います」

尾辻 この状況に手をこまねいているわけにはいかない。音楽業界が一枚岩になってやるべき課題だと思います。だからこそ、これからやるべきは、アーティストが発信していくこと。それもトップアーティストがやらないと意味がない。ファンにとっても自分の好きなアーティストに言われるのが、一番効果がある。もちろんアーティストのイメージやプロダクションそれぞれの考えはあると思いますが、音楽業界が一致団結してアーティストが声を出せる質の良い環境を作ることが僕たちの仕事だと思います。

高橋 そうですね。企業や業界団体が言うより、アーティストがファンに直接訴えかけることはとても意味がある。たとえばキャンペーンのためのサイトを立ち上げて、それをSNSで告知してくれるだけでもいいと思います。

尾辻 僕はもっと声高らかにやってもいいと思います。たとえば、“音楽をなくさない日”というのを作って、アーティスト同士がコラボレーションしたり、イベントをしたりしてもいい。真正面から大きく盛り上げていきたいと思っています。それぐらいやらないと変わらないと思います。

無許諾音楽アプリの違法性について

※出典:無許諾音楽アプリの現状と音楽業界の対策(一般社団法人 日本レコード協会、LINE MUSIC株式会社)


1. 許諾実績のないサイト(サーバー)に蔵置された音源をストリーミングまたはダウンロードにて配信しているアプリ
(1)アプリおよびアプリ運営者(開発者)
違法な公衆送信をほう助しており、現行法下でも著作権法違反となる可能性が高い

悪質なリーチサイト/アプリを規制する著作権法改正が予定されている(刑事罰対象予定)

(2)利用者 ストリーミング:違法性は問えない
ダウンロード:違法にアップロードされた音源と知りながら行った場合は違法行為(刑事罰)

(3)サーバーへ音源等をアップロードした者
送信可能化権侵害(刑事罰)


2. YouTube等が提供するAPIの利用規約またはアプリストアの利用規約に違反しているアプリ
(1)アプリおよびアプリ運営者(開発者)
利用規約違反に基づき削除要請。ただし、権利者が許諾した音源のみにリンクしていた場合はアプリの違法性は問えない

(2)利用者
ストリーミング:違法性は問えない
ダウンロード:違法にアップロードされた音源と知りながら行った場合は違法行為(刑事罰)

(3)YouTube等へ音源等をアップロードした者
権利者の許諾なく音源等をアップロードした者は送信可能化権侵害
(プラットフォーム事業者は、権利者からの削除依頼に適切に応じている場合は損害賠償責任を問われない)

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