特集記事

2019.01.18

SPECIAL

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高 泰一さん

レーベルのデジタル担当者に聞く! interview #1

高 泰一さん
株式会社ソニー・ミュージックマーケティング デジタル・マーケティンググループ副本部長

カタログ数も豊富なソニーミュージック。長く聴かれるような曲、すなわち“いい曲”ほど ユーザーとの接点を広げられ、マネタイズにつながるので、キャリアやカタログの 豊富なアーティストこそストリーミングに向いていると、力強い言葉をいただいた。

text:柴 那典 photo:佐々木康太(Iris)

レスポンスが短くなっているぶん、ヒットの
チャンスを多く作れるのではないかと思います。

人気のあるプレイリストにどう楽曲を入れるかがポイントのひとつ

海外ではストリーミングサービスが音楽市場の主流になっているわけですが、それによって音楽の売り方や届け方はどう変わったととらえていますか?

以前はダウンロードとストリーミングをあわせてデジタル音楽配信とする考え方が主流でしたが、今はダウンロードはむしろパッケージとともに“所有”としてくくるような考え方になってきています。よく知られていることですが、海外ではパッケージの市場はアナログレコード以外は縮小しています。ダウンロードの市場も縮小していて、ストリーミングが伸びている。それによっていわゆるデジタルストアの在り方が変わってきました。

どう変わってきたんでしょうか?

ダウンロードだと、iTunes StoreでもCDショップと同じようにジャケ写を見てアーティスト名や作品名から選ぶ見せ方になっています。しかし、Spotifyなどストリーミングサイトはニューリリースコーナーもありますが、プレイリストをメインで見せるようになっている。そのためプレイリスト経由で音楽に触れることが多く、人気のあるプレイリストにどうやって楽曲を入れるかが、売り方のひとつになっていると思います。ヒットのためにはユーザーとの接点を増やさないといけないので、ニューリリースのプレイリストだけでなく、たとえば女性ボーカルのプレイリスト、カフェに合う音楽のプレイリストのように、ジャンルやシチュエーションごとのプレイリストにも入れていく。接点が増え、多く聴かれるとヒットチャートに入る。ヒットチャートのプレイリストはよく聴かれるので、そこからさらにロングヒットにつながっていくという考え方です。

日本ではまだCDの市場が大きいですが、この現状はどうとらえていますか?

日本はアーティストのファンがきちんといるため、所有欲の高いリスナーが多いのではないかと思います。そのことは決してネガティブなことではなく、ストリーミングが普及してもパッケージ市場と共存していく可能性もあり得るのではないかと考えたりもします。ストリーミングで多くの音楽をチェックして気に入ったものは何回も聴いて、そのうえで欲しいものはモノとしてCDやアナログを買うということになっていくかもしれないですし。

CDもデジタルも共存している。

弊社でいうと、たとえば欅坂46や乃木坂46はCDやダウンロードでも売れていますが、それでいてストリーミングサービスでの再生回数もとても多く、ランキングでも上位に入ってきています。菅田将暉もそうです。本当の意味でのヒット曲や話題になった曲は、CDでもダウンロードでもストリーミングでも、どんなメディアでもヒットする。そこまで行くと“カニバる(食い合う)”という感じはしないです。むしろ音楽の聴き方の選択肢が多く用意されていることがユーザーへのメリットではないかと思えます。

キャリアのあるアーティストほどメリットが大きいと思います

YouTube Musicがスタートしたこともあり、これまではプロモーションの場として位置づけられていたYouTubeがこの先はSpotifyと同じくフリーミアムモデルのストリーミングサービスとして位置づけられるようになっていくのではないかと思っています。そのあたりについてはいかがでしょうか?

CDやDVDなどを所有してもらうことがゴールのアイテムならプロモーションと言っても良かったかもしれないですが、ストリーミングサービスがメインになってくると、一度購入されて終わりということではなく、1人のユーザーの持っている時間のなかで、その曲が何度聴かれるかということがとても重要になってくるわけです。プロモーションとは何だろうかと様々な角度で考えていかなければならないと思います。

同じデジタルでも、ダウンロードと違ってストリーミングではその曲がリスナーに何回聴かれるかが重要になる。

ダウンロードやパッケージは購入された時点で売り上げが立ちます。しかしストリーミングは1回で終わりではなく、聴かれるたびに累計的に積み上がっていきます。ストリーミングでヒット曲を生むためには、長い期間で何度も聴いてもらうことが重要になってきます。

そうしたヒット曲の実例というのはありますか?

清水翔太の「My Boo」という曲はまさにそうですね。長く聴かれていて、いろいろなタイプのプレイリストにもよく入っています。CDやダウンロードだと購入してもらったあとに何回聴かれたかはわからない。けれどストリーミングでは何回聴かれたのかがマネタイズに直結するし、聴かれれば聴かれるほどチャートにもつながってきます。清水翔太の「My Boo」のヒットはCDやダウンロードからは見えない現象で、届き方が変わった瞬間なのかなって思いました。

ほかのアーティストではどうでしょうか?

たとえば崎山蒼志というシンガーソングライターがいるんですけど、彼はAbemaTVの『日村がゆく』という番組の「高校生フォークソングGP」という企画で注目を集めて、その様子がTwitterで拡散されたことをきっかけにストリーミングのランキングが上がりました。また、King Gnuはライブで動員が増えるごとに再生回数が増えていって、ファンが広がっていく様子が目に見えてわかりました。フジロック出演時も再生回数が増えましたし、「Prayer X」がTVアニメ『BANANA FISH』のエンディングテーマになったときもさらに大きく増えランキングも上がりました。楽曲がユーザーに届く感じが時系列的に目に見えました。

ここ最近は、キャリアのある大物アーティストがストリーミングサービスに音源を解禁する例も多くなりました。こうしたカタログからのヒットが生まれるという例もありますか?

そうですね。今の時代、ヒット曲がどういう形で生まれるかわからない部分もあると思います。たとえば『のどじまんTHEワールド!』のように、外国の方が日本の歌謡曲やJ-POPの曲を歌うカラオケ番組がある。あの放送のあとには優勝曲や出演した方が歌った曲がすごく跳ねる。その番組を観た視聴者が“いい曲だね”と気づいてオリジナル楽曲を購入したり再生したりする。そういう反応もあります。ユーザーとの接点を増やす意味でも、キャリアのあるアーティストほどストリーミングサービスに配信することはメリットが大きいのではないかと思います。

高 泰一さん

ストリーミングは1回で終わりではなく、累計的に積み上がっていく。ストリーミングでヒット曲を生むには、長い期間で何度も聴いてもらうことが重要。

バズったものをどうやって次につなげるかが重要になってきている

アーティストやマネージメントにとっては、実際のところ“ビジネスとして成り立つのか”が気になると思うのですが。

カタログをたくさん持っているアーティストこそストリーミングに向いているのではと思います。何がきっかけでユーザーが曲と出会うかわからないので、ストリーミングサービスに曲があれば、即座にユーザーが接するチャンスを増やすことができます。ユーザーは新たに課金をせずに気になった曲を存分に楽しめるわけです。そこには“初めまして”的な出会いはもちろん、“お久しぶりですね”的な出会いもあると思います。その出会いの即時性は新規ユーザーはもちろん、すでにCDを購入していた人も対象になるわけです。そういう意味でもカタログやヒット曲がたくさんあればあるほど出会いのきっかけが増え、曲を聴いてもらえるビジネス的なチャンスも同様に増えるのではないかと思っています。

これからのアーティストに関しては、どうでしょうか?

音楽を聴いてくれる人との接点が増える手法として、ツール的なとらえ方もできると思います。ネットにも近い存在ですし、チェックするのにも伝えるのにもチャンスが多くなるのではないかと。また、単なる接点ではなくマネタイズにもなり、ユーザーも違法ではない手段で音楽を聴く手軽な機会も増えるので、いい形のひとつだと思います。

ストリーミングサービスの普及以降、アーティストをどうブレイクさせていくかについては違う方法論が生まれてきそうですね。

今後のデジタルの戦略においては、バズったものをどうやって次につなげるかが重要になってきていると思います。それまでは何らかの形で購入という行為に結びつかせないといけなかったけれど、ストリーミングだと支払いという行動を都度しなくてもいい。そこが一番大きな違いではないでしょうか。

バズの作り方も大きなポイントになりますね。

バズらせるにも2つのやり方があると思っています。ひとつは、テレビやマスメディアの力を借りて知らない人に伝えるというやり方。もうひとつは、TwitterやInstagramなどのSNSを通じて、そこにいるコアファンを経て伝えてもらうというやり方。どういうバズり方をするかは、それぞれのアーティスト性によって変わってくると思います。ただ、どちらにしろネットの世界だけで完結できる形ができてきている。たとえばTwitterのリンクからストリーミングサービスが立ち上がるようになっている。気になった曲へのレスポンスが短くなっているぶん、ヒットのチャンスを多く作れるのではないかと思っています。そういう時代になっている今、興味を持ってもらえる情報と興味を失わせない時間、そんなコミュニケーションをどう作っていくかが重要な時代になってきていると思います。

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