特集記事

2017.09.15

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かつては“高嶺の花”だったハイレゾも、ここ数年でだいぶ普及した感はあるが、そもそも「ハイレゾ」とは何であるのか。そして果たして「ハイレゾ=良い音」なのか。オーディオ&ビジュアル評論家が、ズバリ斬る!

text:本田雅一

“心地よさ”“気持ちよさ”へのこだわりは、
今のハイレゾ時代、如実に伝わる。

「ハイレゾ」とは何か

 “良い音”とは何なんだろうか。
 オーディオ業界において“良い音”を語るとき、ここ数年頻繁に登場するようになったキーワードがある。それが「ハイレゾ(Hi-res)」だ。解像度が高いという意味だから、本来は「ハイレゾ音源」や「ハイレゾ対応オーディオ機器」と言うべきだろう。
 現代に流通している音源は一部のアナログ盤を除けば、ほぼすべてがデジタル音源だ。音源をデジタル化する際、どの程度、高精度にサンプリング(数値化)するかで解像度が決まる。ハイレゾ音源とは、その解像度が高いという意味だ。
 もっとも一般的な音源であるCDや主だったダウンロード/ストリーミング配信では、44.1kHz(1秒間に4万4,100回)の頻度で音声信号波形を16ビット精度で計測し、デジタル信号に変換している。ハイレゾとはこの数字を超える精度でデジタル化された音源のこと。キャッチーなキーワードは一般層以外も巻き込んで新しい市場を生み出しつつある。

「ハイレゾ」普及史

 CDのように物理媒体に音源を封入する場合、業界内で共通のフォーマット(仕様)を決めねばならない。前述の44.1kHz/16ビットという数字は、1982年販売開始のCDにおける仕様だ。しかし技術は常に進歩し続け、この壁を破ろうと1999年にはSACDとDVD-Audioが登場するが、いずれも普及には至らなかった。いずれも現在の言葉で言えば「ハイレゾ」に相当する。
 では18年前に普及に失敗したハイレゾ音源が、ここ数年急速に注目を集めるようになったのはなぜだろうか? それは、新たな追加機器を購入しなくとも簡単にハイレゾ音源を楽しめる環境が生まれ、またハイレゾ音源を流通させるコストが大幅に下がったのが理由だ。
 音源の流通はネットを通じた物理メディアを伴わない音楽流通の時代へと変化している。新たなパッケージを流通させなくとも、高品位なバリエーションをネット配信すればいいだけで、新フォーマット立ち上げのハードルが下がったのである。
 加えてスマートフォンに代表される「アプリ」を用いて、誰もが簡単にネット配信を扱えるようになったことも大きい。アプリを開発すれば新たなプレーヤーを購入しなくともハイレゾを楽しめる。
 加えて、スマートフォンの普及は、もうひとつ別の面で“良い音”に興味を持つ消費者を増やしている。誰もが持っているスマートフォンという窓を通じ、音楽を日常的に楽しむ環境が整い、“音楽に触れる機会”が増えたからだ。日常のなかで音楽に触れる機会が多くなれば、そこには事業機会が生まれる。実演中心でのビジネスが伸びてきた背景も、そうした音楽と消費者の関係性の変化ではないだろうか。
 音楽に日常的に触れる人たちが増加すれば、そのなかに一定割合いる“音質にこだわる”人たちの動きが目立ってくるのは自明で、音楽ファンの母数増加がオーディオマニアの増加につながっている。
 米国ではHDtracksが2008年にサービスイン。ハイレゾ…具体的にはマスタリング後のデジタルマスターをそのままの品質でダウンロード販売し始めた。またストリーミング配信に関しても、近年になって米TIDALや仏QobuzがCD品質を超えるハイレゾ音源を配信するサービスを開始している。日本におけるハイレゾ配信はダウンロード配信のみにとどまっているが、機器とコンテンツの両面でハイレゾを楽しめる環境がそろってきたことで、“良い音”に対する意識が高まってきているとは言えるだろう。

「ハイレゾ=良い音」?

 オーディオ業界に長くかかわってきた者として、“良い音”への意識が高まってきたことはうれいしいことだが、いっぽうで心配な側面もある。
 「ハイレゾ」は音楽情報を収める器が大きくなっただけに過ぎない。器が大きくなったからといって、必ずしも音が良いとはかぎらない。ハイレゾ音源だと思って高い音源を買ったのに、実は音質が良くないなんてことが続けば、このブームはいつか去っていくだろう。
 たとえば、近年流行しているアナログ盤も、音質の悪い復刻アルバムを安易に発売しているレベールもあるが、ハイレゾ形式という“印”に頼っているだけでは、その印を信じてくれた消費者も「ハイレゾって何がいいの?」とその価値を理解できないまま一過性のブームで終わってしまう。
 そのいっぽうで音質にこだわった音源であれば、本来、アーティストやエンジニアが意図した心地よさ、自然な音場と音場を埋める空気感、あるいは演奏のニュアンスなど、それまで感じたことのなかった質感に触れ、感じることで、良い音が良い音楽に効くのだと気づいた音楽ファンも少なくない。
 「生音系ではないから、そこまでこだわらなくとも」という意見も耳にしたことがあるが、たとえDJミックスやサンプリング中心の楽曲であったとしても、最終的な“心地よさ”“気持ちよさ”に対するこだわりは、今のハイレゾ時代、如実に伝わる。再生環境と音楽データの流通。両方が整った現代、それらを活かそうという音楽制作者が増えてくることを望みたい。

WRITER PROFILE

PC、モバイル、インターネット、オーディオ&ビジュアルをはじめ、様々な分野をカバーするジャーナリスト、評論家、コラムニスト。メルマガ『続モバイル通信リターンズ』配信中。

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