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「音楽著作権」バイブル

2017年07月14日 (金) 「音楽著作権」バイブル

第10回 二次的著作物の創作と利用

 今回は、財産権としての著作権を構成する支分権の最後として、「翻訳権」「翻案権」など 「二次的著作物」を創作する権利と、その二次的著作物を利用するときに働く権利を取り上げます。

今回のポイント


(1)既存の著作物に翻訳、翻案などの加工を施して創作した著作物を「二次的著作物」と言う。
(2)二次的著作物を創作するには原著作物の著作者の許諾を得る必要がある。
(3)二次的著作物を利用するには、二次的著作物の著作者のほかにその原著作物の著作者の許諾を得る必要がある。

二次的著作物とは

「二次的著作物」については著作権法2条1項11号で次のように定義されています。

第2条1項11条
二次的著作物 著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいう。

 この条文は、条文としては短いものの、「若しくは」と「又は」という類語が混在しているので、文の構成としては単純ではありません。
 「若しくは」も「又は」も日常的には同じ意味として使われますが、契約書や法令で使用する場合は、厳密に使い分けられています。どのように使い分けられているかというと、ひとつのセンテンスに「若しくは」と「又は」の両方が用いられている場合、「若しくは」は小さい接続に用いられ、「又は」は大きい接続に用いられるのです。
 このことから、二次的著作物とは、既存の著作物に次のような加工を施して創作した著作物ということになります。
(1)翻訳
(2)編曲
(3)変形
(4)翻案
(i)脚色
(ii)映画化
(iii)その他

 つまり、二次的著作物を創作する手段には「翻訳」「編曲」「変形」「翻案」の4通りあり、そのうちの翻案には「脚色」「映画化」「その他の翻案」があるということになります。
 なお、学者や弁護士などの著作権法の専門家のなかには、これらの二次的著作物創作手段をひとまとめにして「翻案」と言う場合があることに留意してください。
 次に、これら二次的著作物創作手段についてひとつずつ説明します。

翻訳とは

 まず「翻訳」とは、言語の著作物を言語体系の異なるほかの国語で表現し直すことです。英語で書かれた小説を日本語にすることや、日本語の文章を英語に訳すことなどが該当します。点字訳や暗号解読は翻訳ではありません。
 音楽著作物である歌詞を翻訳して歌えるようにしたものを「訳詞」と言いますが、これも翻訳の一種です。なお、原文の歌詞に並べて訳文を示しただけの「対訳」は、歌えるように訳されていないので訳詞とは言いませんが、対訳行為に創作性が認められれば翻訳に該当します。
 映画の会話部分のスーパーインポーズの挿入や吹き替えも翻訳に該当します。

編曲とは

 「編曲」とは、音楽の著作物の楽曲部分をアレンジすることによって原曲に新たな創作を加えることです。単にキーを変えただけとか、ボーカル部分のメロディを楽器に置き換えただけでは、著作権法上の「編曲」には該当しません。
 ところで、編曲に関しては、その編曲行為に創作性があるか否かという問題のほかに、編曲者の行為が、二次的著作物ではなく原著作物の一部を構成する場合があるのではないかという問題意識が筆者にはあります。この点については、末尾の「編曲行為と著作者としての扱いについて」を読んでください。

変形とは

 肖像画を彫刻に、マンガの登場人物を人形にするなど次元を異にして表現することや、写真を絵画にするなど表現形式を変更することにより二次的著作物を創作することを「変形」と言います。

翻案とは

 「翻案」とは、原著作物の基本となる筋・仕組み・主たる構成などの内面形式を維持しつつ外面形式(具体的な表現)を変えることで二次的著作物を作成することです。  翻案には、「脚色」「映画化」などがあります。脚色とは、小説をもとに脚本をつくる場合のように、非演劇的な著作物を演劇的な著作物に書き換えることを言い、映画化とは、小説やマンガなどをもとにして映画の著作物を製作することを言います。ほかには、小説を児童向けの読み物に書き換えることなども翻案にあたるとされています。

翻訳権・翻案権等

 翻訳権や翻案権を定めた著作権法27条の条文は、次の通り2条1項11号の二次的著作物の定義で用いられている表現をそのまま使っています。

第27条(翻訳権、翻案権等)
著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。

 このことから、27条は、「著作者は二次的著作物を創作する権利を専有する。」と言い換えることができます。つまり、既存の著作物(原著作物)をもとにして二次的著作物を創作しようとする者は、その原著作物の著作者(原著作者)の許諾を得なければなりません。

二次的著作物の利用権

第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)
二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。

 二次的著作物の原著作者は、二次的著作物の利用に際し、二次的著作物の著作者が有する権利と同じ種類の権利を持ちます。条文にある「この款に規定する権利」とは、第3款「著作権に含まれる権利の種類」で規定されている権利(21条から28条までの権利)のことです。
 たとえば、二次的著作物を複製するときは、二次的著作物の著作者の複製権(21条)が働くと同時に原著作者の複製権も働きます。したがって、二次的著作物の著作者と原著作者の両方の許諾が必要になるわけです。
 なお、原著作者が二次的著作物の著作者が有する権利と同じ種類の権利を持つということは、二次的著作物には存在するが原著作物には存在しない支分権があったとしても、その二次的著作物の利用に関しては、原著作者も当該支分権を持つことを意味します。たとえば、美術の著作物であるマンガには「展示権」という支分権がありますが(25条)、言語の著作物である小説には展示権はありません。しかし、小説がマンガ化されれば、その原著作物である小説にも、当該マンガの利用に関しては展示権が発生するということです。

二次的著作物」と「二次創作物」の違い

 ここで、最近なにかと話題になっている同人誌における「二次創作物」と著作権法上の「二次的著作物」の違いについて説明します。
 「二次創作」とは既存のマンガやアニメやゲームなど原著作物のキャラクターに依拠し、ストーリーを改変したり、終了したシリーズ作品の続編を創作したりすることなどを言うようで、コミケ(コミックマーケット)で販売されている同人誌の多くが、そのようにして創作された「二次創作物」であると言われています。
 同人誌における二次創作物に関しては、そのほとんどが原著作者に無断で作成され頒布されていることや、無断創作であるにもかかわらず、多くの原著作者が差止請求や損害賠償請求などの法的対応をとっていないことについて、著作権関係者間で議論されているところです。
 二次創作物のキャラクターの絵柄や物語の内容が原著作物と似ている場合は、その度合いによっては原著作物の複製ないし翻案と判断される可能性があります。翻案ということになれば二次的著作物を創作したということになります。そして、その複製や翻案が原著作者に無断で行われたのであれば著作権の侵害となり、さらに、著作者人格権(同一性保持権や指名表示権)の侵害になることも考えられます。
 いっぽう、二次創作物であっても、原著作物の登場キャラクターの名前や設定、性格づけなどアイデアのみを真似たのであれば、原著作物の表現を利用したことにはならないので、二次的著作物には該当せず、原著作者の著作権や著作者人格権は働きません。したがって、そのようなことを原著作者に無断で行っても著作権や著作者人格権の侵害にはなりません。
 このように、二次創作物のすべてが二次的著作物に該当するわけではなく、該当するか否かは原著作物からの依拠の内容や度合いを個別に考慮して判断されるべきものです。
 それはさておき、同人誌における二次創作の文化は、著作権法に抵触するしないにかかわらず、原著作物に対するリスペストの精神を持ち、原著作物を明らかにすることで成り立っているようです。(参考資料:『ネット時代のクリエイターやミュージシャンが得する権利や著作権の本』シンコーミュージック・エンタテイメント刊)

編曲行為と著作者としての扱いについて

 歌詞つきの音楽著作物における作曲行為とは、歌詞の部分にメロディをつけることを意味する場合が多いかと思います。
 歌詞つきの音楽著作物は、歌詞と楽曲という別個の独立した著作物で構成される結合著作物ですが、その楽曲部分は歌詞の部分につけたメロディだけでは成り立ちません。音楽作品として完成させるには、伴奏のためのオーケストレーションを施し、イントロや間奏やエンディングなどをつける作業を必要とします。このような作業を「編曲」と言います。
 では、編曲を行った者は、その楽曲の原著作者となり得るでしょうか。それとも、編曲という二次的著作物の著作者にすぎないのでしょうか。
 この問題を考える場合、その音楽作品が世に出た時になされた編曲(これをJASRACは「公表時編曲」と呼んでいる)と、世に出たのちに、その音楽作品をカバーレコーディングやコンサートなどで利用する時になされた編曲(これを本稿では「利用時編曲」と呼ぶこととする)に分けて考える必要があります。
 公表時編曲の場合、編曲者は、メロディや歌詞の内容などを参考に、楽器編成を決め、和声やリズムを考え、イントロや間奏やエンディング部を創作してこれを楽器別に書き分けた総譜(スコア)を完成させます。これにより、その音楽作品の全体像ができあがり、これをもとにレコーディングして原盤が制作され、原著作物たる音楽作品が完成するわけです。
 公表時編曲を行うにあたって作曲者から和声やリズムやイントロのメロディなどで具体的で詳細な指示・指定があった場合は別として、そのような指示等はなく、編曲者が自分の感性でこれらの作業を行えば、編曲者も原著作物たる楽曲の著作者になり得るものと筆者は考えます。
 これに対し利用時編曲は、既存の音楽著作物を編曲するので、そこに新たな創作性が付加された場合でも当然ながら原著作物の著作者にはなり得ず、二次的著作物の著作者の扱いになります。また、新たな創作性が付加されていると評価できない編曲は二次的著作物に該当しないので、その編曲者は二次的著作物の著作者にもなり得ません。
 JASRACと信託契約を締結している作家が公表時編曲を行い、それをJASRACに届けると、当該編曲者に著作権使用料の一部が分配されます。分配の対象となる使用料は、当該音楽作品のカラオケ演奏使用料と業務用通信カラオケの公衆送信使用料で、これらの使用料の12分の1が、作詞者・作曲者・音楽出版社の取り分から均等に控除されて編曲者に分配されます。
 このように、編曲者は公表時編曲については作曲者に準じた扱いがなされているものの、作曲者にくらべると待遇の水準はかなり低いと考えられます。公表時編曲者が作曲者と同等の扱いを受けるためには、作曲者の1人に名を連ねる(共同作曲者として表記する)しかありませんが、そうなると作曲者の権利持ち分が減るので、勝手に行うと問題が生じます。作曲者の同意が必要となるでしょう。
 いっぽう、利用時編曲の場合は、その編曲物が二次的著作物に該当すれば編曲者に著作権が発生しますが、実際は、編曲の許諾を得るときの条件によって、その編曲物の利用に関しては原作品の権利関係だけで処理されています。したがって、利用時編曲の編曲者は原則として著作権使用料の分配に預かれません。依頼者から編曲料をもらうだけです。
 利用時編曲の編曲者が著作権使用料の分配を受ける方法もありますが、そのためには、原作品の関係権利者全員(作詞者・作曲者・音楽出版社)の書面による同意を得たうえでJASRACに編曲物の審査を依頼し、JASRACに設置されている編曲審査委員会で編曲著作物(二次的著作物)として認めてもらう必要があります。しかし、編曲著作物として承認された場合、編曲者に分配される著作権使用料は原作品の著作者の取り分から控除されることになるので、関係権利者の同意を取り付けることはきわめて困難です。このため、実際に編曲審査委員会で審査される編曲物のほとんどは、著作権が消滅している楽曲(PD楽曲)です。

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