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2017.05.15

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「洋楽天国」 高橋裕二さん

「洋楽天国」の高橋裕二さんが語る!

「グラミー賞」のここがすごい!

レコード会社でビリー・ジョエルやマイケル・ジャクソンらビッグネームを 宣伝したきた高橋裕二さんをお迎えし、グラミー賞とは何か、どんな歴史を 辿ってきたのか、何がすごいのかなど、基本から裏話までお聞きした。

text:海江敦士 photo:小松陽祐(ODD JOB LTD.)

やっぱりお祭りだよね。
受賞すれば知名度が上がる効果は絶対にある。

「グラミー賞」とは何か?

多くの人が知っていて、実はその実態をよく理解していないのが「グラミー賞」だと思うんです。まずは、長いこと洋楽シーンを見続けてきた高橋さんから簡単にグラミー賞の説明をお願いできますか?

そもそもは、グラミー賞を考えた全米レコーディング芸術科学アカデミー(The National Academy of Recording Arts & Sciences, Inc. : NARAS)っていう団体があるんだけど、これは基本的に親睦団体なのね。会員にはアーティスト、作家、プロデューサー、アレンジャー、エンジニアがいて、日本のレコード大賞みたいに、ひとつのメディアが賞を授与するっていうのとは根本的に違うんだよ。

しかも、カテゴリーがたくさんありますし、規模の大きさを感じます。

そうなんだけど、一般的には主要4部門(最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞、最優秀アルバム賞、最優秀新人賞)が知られてると思う。面白いのは、最優秀新人賞に関しては音源を出してなくてもいいのよ。演奏活動をしていれば。

そうなんですか! 知りませんでした!

たとえば2011年に新人賞を受賞したのはエスペランサ・スポルディングっていう女性のジャズベーシストなのね。彼女は音源も出てなければ、あまり知られていないっていう(苦笑)。で、受賞のあと、みんな「エスペランサって誰?」ってなったんだけど、それまでジャズ界からの新人賞はなかったんだよね。そもそも、選ぶ側には技術者もいるから、“実力ありき”っていう意見もあって。

ある意味、選考の幅が広いんですね。

その新人賞以外の主要3部門に関しては、9月30日までに発売しなければ翌年の賞にエントリーができない。それでみんな9月30日を目指してリリースするんだけど、アメリカってレコードが一番売れるのは11月末のサンクスギビング(=感謝祭)の時期なのよ。それで、10月末からサンクスギビングにかけて絶対に売れる商品を出すことが多くなる。レコードもある種シーズナルな商品だから、ここが一番売れるのね。ということは、9月30日以降にリリースした作品がノミネートされるのは翌々年のグラミーになると。

そうなってしまいますね。

たとえば、今年のグラミーはアデルが主要3部門をとったけど、あれは一昨年の11月20日に出た作品だからさ。

確かにサンクスギビング時期にリリースしてますね。

そうなんだよ。商売としては完璧なタイミングでしょ? ちなみに、その前の年(2014年)は、テイラー・スウィフトが10月にアルバムをリリースして最優秀アルバム賞(2016年)をとってる(『1989』)。

やはり勝負時期のリリースだったと。エンタメビジネスは徹底的に計算されているんですね。

アメリカではグラミー以外にも映画関係ならアカデミー賞、テレビ番組はエミー賞で、ブロードウェイにはトニー賞がある。やっぱりどれもお祭りだよね。そこで受賞した人や作品は、その分野に詳しい人なら“へぇ〜”って感じるだろうけど、一般の人には“あ、これってすごいんだ”っていう宣伝になる。

影響力は絶大ですね。

で、グラミーに話を戻すと、9月30日に締め切ってから、12月初旬にノミネーションが発表になって、2月のアタマに発表があるっていうスケジュールなの。

日本にも多少の影響はありますよね?

まあ、俺が1970年にCBSソニー(現ソニーミュージック)に入った頃なんて、ブラッド・スウェット&ティアーズが最優秀アルバム賞をとったものの(『血と汗と涙』)、誰も何も言わなかったからね(苦笑)。翌年はサイモン&ガーファンクルが『明日に架ける橋』で受賞するんだけど、すでに売れてたから“まあ、そんなもんだよね”って感じで(苦笑)。1979年にはビリー・ジョエルが「素顔のままで」で最優秀レコード賞と最優秀楽曲賞の2部門を受賞したけど、日本で売れたのは「ストレンジャー」だったからね。グラミーは関係なかった(苦笑)。

日本では、どうして「素顔のままで」じゃなかったんでしょうか。

日本で洋楽のレコードを売るにはラジオを使うしかなかったのよ。グラミーをとったからって屁でもないわけ。編成会議でも「素顔のままで」はオシャレすぎるよねって話になって。ただ、「ストレンジャー」のイントロは口笛だったでしょ? 口笛で始まる曲なんてほとんどなかったから、これはインパクトがあるなって(苦笑)。

え! そんな理由で!

もちろん、受賞すれば知名度が上がる効果は絶対にある。今回もアデルが受賞して以降、ビルボードのチャートが即上がったからね。この即上がるっていう背景には、iTunesがあると思う。iTunesなら曲がすぐ手に入るから。

「グラミー賞」の変遷

長いグラミーの歴史のなかで、受賞するアーティストの傾向が変化したと実感されたことはありますか?

初期はフランク・シナトラとかバーブラ・ストライサンドのようなボーカルものが多かった。意識が変わったのは1967年にビートルズがリリースした『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』で最優秀アルバム賞を受賞した頃じゃないかな(1968年)。アメリカ人って、それまではシングルでビートルズを知っていたけど、まさか『サージェント・ペパーズ〜』みたいな作品を作るとは…っていうんで、みんなびっくりしたと思う。

ほかにもターニングポイントになった年はありますか?

スティーヴィー・ワンダーが『インナーヴィジョンズ』で最優秀アルバム賞をとった1974年かな。それまでのブラックミュージックって、ディスコで踊るシングル曲が中心だったんだよね。でも、スティーヴィー・ワンダーは作詞作曲ができて歌も歌えて楽器が弾けて、作品の質も非常に高かった。言ってみればアメリカのR&B、ソウルミュージックの開拓者だと思う。

そういう開拓者たちがしっかり評価されているのは素晴らしいですね。

もうひとつ、スティーヴィー・ワンダーの受賞から時間は経つんだけど、ブラックミュージックで印象的なアルバム賞は1984年に受賞したマイケル・ジャクソンの『スリラー』だね。

これはもう触れないわけにはいかないアルバムですね。いわゆるPVの完成度の高さでも、抜群の影響力があったと思います。

そうそう。MTVが1981年の8月に始まってるから。MTVがなくしてマイケル・ジャクソンはあんなに売れてないよね。

そこからしばらくはPVの比重が大きい時代が続いた気がします。

海外に行こうとするアーティストには、ひとつの武器になったね。だって、わざわざお金かけてプロモーションやツアーに出かけなくても、PVでプロモーションができるから。そういう手法で大ヒットしたのは、間違いなくノラ・ジョーンズだと思う。彼女も2003年に主要4部門を独占してるね。

「洋楽天国」 高橋裕二さん

すごいインパクトだったのは、喜多郎。
正直、インストものなら日本人にも可能性はあるよね。

受賞アーティストの傾向

実は日本人アーティストも主要部門ではないものの、受賞している方がいるんですよね。

俺がすごいインパクトだなって思ったのは、実は坂本龍一さんより喜多郎だと思う(2001年に最優秀ニューエイジ・アルバム賞を受賞)。正直、インストものなら日本人にも可能性はあるよね。あと、ダンスミュージックとか。でも、ダンスはダンスでも男性ボーカル部門で競争するのは難しいと思う。

まあ、日本人アーティストでも夢は持ちたいですけども…。

グラミーをとれる確率でいうと、本場のアメリカは当然高いけど、このところイギリス勢が強いよね。イギリスのアーティストは基本的に自分たちで曲を作るのに対して、アメリカはプロデューサー、エンジニア、コンポーザー含めた数名のチームで作る。あと、どこで聴くかっていうと圧倒的にカーラジオだから、車のなかでラジオで聴いたらどう聴こえるかっていう部分に重点を置くわけ。そこを理解しているのがプロデューサーなんだよ。だから、音源が完成したとき、プロデューサーは小さいラジカセで再生するのね。つまり、曲に対して、かかわるスタッフの人数が多すぎる。まあ、そういう曲を作るプロだからチャチャチャのチャで作っちゃうんだけど、たいがい予定調和なんだよ、これが(苦笑)。

そう考えたらイギリスのアーティストは個性が出やすいですね。

アデルがすごいのは、詞を作ったらどういうふうに響くかを非常によく知ってること。それに、せいぜい1人の作家とかプロデューサーとしか組まないから、自分が出せてるんじゃないかな。その代わり、売れなかったら自己責任になるけど。

英国の「ブリット・アワード」事情

ところで、グラミーの会場で実際に観覧することはできるんでしょうか?

すごいプラチナチケットだから、難しいけどね。チケットといえば、余談だけどイギリスの由緒あるアワードでブリット・アワードっていうのがあって、これは全英レコード協会基金みたいな団体が催しているわけ。授賞式では一般客を1万5千人くらい入れるんだけど、そのチケット代を何に使うかというと、大部分がブリットスクールの運営資金なの。ここは13〜18才くらいまでの人材を集めたアーティストの育成機関で、音楽や映像、美術を含めた様々なことが学べて授業料は無料。ここの出身で一番成功したのはアデルだと思うけど、ジェシー・Jとかレオナ・ルイスもここの出身。日本も見習ってほしいなぁ。

エンタメに対する意識が高いんですね。

業界全体が新しいアーティストをどうサポートしていくか。そして、そのサポートに対して周囲が評価するっていう風土がある。やっぱり素晴らしいよね。

PROFILE

「洋楽天国」 高橋裕二さん

高橋裕二

1947年生まれ。CBSソニーでスリー・ディグリーズ、ジェフ・ベック、ビリー・ジョエルらを、EPICソニーで洋楽部長としてマイケル・ジャクソンらの宣伝を担当後、ソニーコンピュータ・エンタテインメント取締役業務部長、ユニバーサル ミュージック宣伝担当取締役、ドリーミュージック取締役、ポニーキャニオン取締役などを歴任(社名は当時)。現在はブログ「洋楽天国」で最新の音楽情報を毎日提供中。

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