音楽にまつわる「ちょっといい話」

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第38回 アーティストを支援するためのスマホアプリ[コミュニティアプリ「utoniq」]

今回のゲスト

今回のゲスト

常田俊太郎さん

(株式会社ユートニック代表取締役)
1990年、長野県生まれ。東京大学工学部卒業後、戦略系コンサルティングファームCDIのプロジェクトマネージャーとして数々の企業を支援。また、音楽面では、ストリングスを中心に演奏やアレンジ、レコーディングなどの活動を展開してきた。 昨年、技術面を担当する同郷の今井祐輝とともに、株式会社ユートニックを設立し、アプリ「utoniq」をリリースした。

 今回取り上げるのは、音楽家やクリエイターの活動を支援するアプリ「utoniq」を手掛ける、ユートニック代表取締役の常田俊太郎さん。「utoniq」とは、簡単にいうと、アーティストへの経済的な支援を行うコミュニティプラットフォーム。具体的には、月額課金でアーティストを定期的に支援することによって、支援者はここだけのコンテンツを楽しめる、というのがベーシックな仕組みだ。アーティストサイドにとっては、そのサービスをSNS感覚で手軽に行えるのも大きなポイントになっている。
 常田さんは音楽家一家に生まれ、自分もその道を志していたが断念し、東京大学の工学部へ進み、卒業後は経営コンサルティングなどを仕事にしてきた。そして、弟はKing Gnuの常田大希。そうしたバックグラウンドと、音楽や音楽家への愛が、このアプリを発案したきっかけにもなっている。ここでは、そんな部分を特にクローズアップした。

別の業界の経験も活かしてもっと音楽業界を良くしていきたい

 ユートニック代表取締役でもある常田さんの人物像に迫ってみたところ、そこにこそ、この「utoniq」の意義が潜んでいた。

音楽を好きになったきっかけを。

うちはもともと家族がみんな音楽をやっていたので、常に音楽が流れていたんです。自分も母親にバイオリンを4才のときから習わされまして。長野の田舎出身なんですけど、高校まではコンクールで全国大会に出てたりもして、結構本格的にやっていたんです。ただ、そのまま音楽の道に進むかどうか選ぶタイミングでいろいろ考えた結果、専門にはしなかったということなんです。

そして東大の工学部へ。

はい。その後は、経営コンサルティングの仕事をしてきていて、音楽はどちらかというと趣味の位置づけでした。ただ、コンサルタントとして様々な業界を経験するなかで、自分は本当は何をやりたいんだろうと考えたときに、やはり音楽とかアートの領域だなと。もちろんそのほかの分野もいろいろ考えたんですけど、壁にぶち当たったときに、強い思い入れがある分野でないとそこで心が折れちゃうんじゃないかなと思って。じゃあ、それでも心が折れない分野って何だろうと思ったら、音楽しかなかったんです。

やっぱり自分は音楽が好きだったと。

そうですね。これまでの経営コンサルタントとしての仕事のなかで得た別の業界のつながりや経験も活かして、もっと音楽業界を良くしていけないかなと思っています。たとえば、ゲームなどのほかのエンタメビジネスの仕組みやノウハウなどは、音楽業界にもいろいろと転用できるはずです。

弟さんがKing Gnuをやっていることも、このアプリには関係しています?

きっかけのひとつとしてはやっぱりあると思います。弟は東京に出てきてずっと音楽をやっていて、全然違う世界ではあったんですけど、ちょくちょく接点はあって。レコーディングで演奏をしたり、ウェブサイトを作ったりと、できることはいろいろ手伝ったりもしてました。あとは、King Gnu以外でも、楽器をやっていた仲間で音楽の道に進んだ人はたくさんいるんです。ただ、やっぱりとても厳しい世界でもあって。自分も行ってた道だったかもしれないので、今の立場だからこそ応援できることをやっていきたいと思ったんです。

アリーナツアーをすることだけがアーティストの成功例ではない

 「utoniq」の目指す先のひとつには、“音楽家の成功”のモデルケースを多様化させたいという願いもあるという。

「utoniq」とは、簡単にいうとどんなものなんでしょう?

簡単にいうと、ファンが月額で課金をして、そこでしか見られないコンテンツや体験っていうものを得られると。それ自体は今までもたくさんあったんですけど、僕らは、それをすごくカジュアルにしているんです。要は、Twitterとかでコンテンツを上げるのと同じぐらいのカジュアルさで、いろんな動画を上げたり、音声もここで録音してそのままアップしたりということをできるようにしたんです。

気軽にファンサービスができる。

はい。手数料もかなり抑えていて。SNSに近い操作感覚でファンクラブのようなことができるようになっています。ただ、これが最終形だとはまったく思ってなくて。あくまでベースとして整ってきたという段階で、この上にいろんな新しいビジネスを乗せていけるようにしていきたいんです。そのひとつが、たとえばアーティストがそれぞれ自分のオリジナルカードを発行して、そのカードを持っていれば限定音源や動画が視聴できたり、イベントに入れたりするというもの。それを単に売るというのでもいいし、たとえばライブに来た人に今日のライブの音源が聴けるカードを記念に無料でプレゼントしますみたいな使い方なんかもできたりすると思うんです。

HPに書かれた解説のなかで「『表現者』が主体性と自由度を持って生き生きと活動」とあったんですが、これについて少し補足していただけますか?

たとえばバンドでいうと、どこどこでやって、武道館でやって、アリーナツアーやってみたいな、いわゆる売れたと言われるひとつの成功モデルがあると思うんです。それはもちろん素晴らしいことなんですけど、でもそれだけが成功ではないと思っていて。じゃあアーティストにとっての成功って何かと考えたときに、根元的にいうと、自分の表現したいことを自分らしく表現し続けられて、その表現を好きな人に支えられて生活が安定的にまわっている状態のことだと思うんです。それを実現する方法は、本来いろいろなものがあるはずで。たとえば、広く知られていなくても少数のファンが支えているという構造でもいいかもしれないですし。そういった多様な成功モデルが当たり前に存在する状態のほうが、みんなにとって音楽がいいものになるんじゃないかなと思うんです。アプリはその1手段でしかないと思っていますが、もっと多様な成功の在り方を作っていきたいと思っています。

アーティストという存在はより深いところで人の生きがいに

 常田さんは、これから「音楽」や「音楽家」が社会的にもより重要な意味を持つようになっていくのではないかと語り、作る側とファンの側との相関関係も変わっていくのではないかと分析する。

音楽や音楽家の未来はどうなっていくと思いますか?

今後AIやロボットが進化していって10年20年先、より多くの仕事は自動化されていくし、人の余暇は増えていく、となったときに、人が何を楽しみに生きるかというと、やっぱり音楽に限らずエンタメというものがすごく重要になってくると思っています。ただそのとき、たとえばNetflixとかでひたすら動画を観続けるのかというと、僕は必ずしもそうではないと思ってます。それは、人が、何かしら他者に働きかけたり世の中に作用していく欲求を根源的に持っていて、エンタメについてもそういうものをどんどん求めていくと思うからです。そうなったときに、アーティストが作ったものをお客として一方的に消費するのももちろんいいんですけど、もっとその活動自体に参画していくというか。自分も何かしら貢献や作用をしていくというような主体的なファン活動を、いろんな人がもっとやり始める世界になるんじゃないかなと。オンラインサロンなんかですでに見られる動きですが、音楽やアートの文脈でもそういった動きは増えてくると思います。思っているのと、なったら面白いなというのと両方入っているんですけど(笑)。

希望も含めて。

となったときに、アーティストとファンの関係性というのが変わっていくのかなと。たとえばこのアプリでも、支援しているファンとアーティストだけでコミュニケーションできる場所があるんですけど、そこで活動の作戦会議のようなことをして集団で広がっていくアーティストがいてもいいのかなと思ったり。そうやっていくと、アーティストという存在が、より深いところで人の人生とか生きがいとかに直結し得るものになっていくのかもしれない。そこに少しでも役に立てればという思いはすごくあります。

ファンもアーティストのクリエーションに関わっていくという。

ファンの人もいろいろ仕事をしているわけじゃないですか。たとえばマーケティングをやっているとかデザインをやっているとか。そのスキルってアーティストからしたらめちゃめちゃ欲しいし、ファン側からしてもそれを使って好きなアーティストに貢献できたらうれしい。それはお互いにとっていいことだと思うんです。なので、このアプリは、単にファンクラブとしてだけでなく、そういう実験的なことに興味のあるアーティストさんとも一緒に取り組んでいけたらなと思っています。

 常田さんのような若い、そして熱意のある才能は、もちろん音楽業界でも求められている。そこで常田さんに「世に出たいと思っている若き才能にアドバイスを」とお願いしたら、「いや、僕も全然世に出てないんで教えてほしいぐらいです(笑)」と謙遜した。ただ、常田さんを見ていると、やはり情熱を持って行動していくことの大切さを、改めて実感させられた気がする。

text:吉田幸司

コミュニティアプリ「utoniq」

コミュニティアプリ「utoniq」

アーティストがスマホだけで簡単に月額会員制のファンコミュニティを作れるアプリ。支援者は月額課金をすることで、ここでしか視聴できない音や動画などを楽しめる。また、会員限定のスペースでは、アーティストとクローズドの状態でコミュニケーションも楽しめる。アーティスト側は、SNS感覚で音や動画をアップできるうえ、月額会員からの月ごとの安定した支援を得ることで、本来集中すべき創作活動やライブ活動に専念できる。

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