ライブハウス店長インタビュー

vol.46 下北沢 近松 森澤恒行さん

vol.46 下北沢 近松 森澤恒行さん

“下北沢の新たな拠点”として誕生した近松。THEラブ人間のツネ・モリサワとして活動する現役バンドマンでもあるオーナーの森澤さんが、なぜ下北沢という地でライブハウスを運営し、どのような思いで近松を支えているのかをうかがった。

text:野中ミサキ(NaNo.works) photo:佐々木康太(Iris)

ここで全部できるっていうのがうちの目指す場所かなと。
そもそも「ライブハウス」って、あんまり言ってないんで。

知らない人に売るくらいだったら 知っている人に買ってもらいたいって

森澤さん、ずいぶん前から本誌を読んでくださっているそうですね。

はい、結構参考にさせてもらっています。「勉強になるから読んだほうがいいよ」ってすすめたりもしますね。今は僕みたいに自分でやるスタイルの人が多いので。

確かに、自分でやる人も増えたし自分でやれることも広がりましたよね。とはいえ、バンド活動と並行してイチからライブハウスを運営するのは、なかなか気合いが必要かと。

バンドとライブハウスの運営って似ているところがあると思うんです。どちらも主軸は音楽だし、ライブハウスには音楽好きが集まるんで、自分たちの音楽をどう伝えていくかっていうバンドのセルフプロデュース的なところを運営に置き替えれば、なんとかやっていけるっていう。

2017年3月に閉店した下北沢CAVE-BE跡地に近松をオープンさせたのが同年6月。もともと同店で働いていらっしゃったそうですね。

はい。さかのぼれば地元広島のCAVE-BEにも通っていたんです。東京に出てきて、“こっちでもバンドをやりたい。けど知り合いもいないし、とりあえずライブハウスでバイトしよう”っていうのがきっかけで。THEラブ人間もCAVE-BEで組んだんです。4年くらい働いたんですけど、メジャーデビューでバンドが忙しくなったタイミングと三軒茶屋と渋谷にあるスタジオファミリアの立ち上げ店長にならないかっていう話が重なって、CAVE-BEを離れました。それからスタジオをやって、メジャーを離れて、2015年に自分たちで活動するために会社を始めて――。

そして2017年に、この近松のオープンに至ると。

前の年の冬に広島のほうから「下北沢店をたたもうと思う」って、なぜか僕に連絡が来て(笑)。知らない人に売るくらいだったら知っている人に買ってもらいたいっていうことを言われて。もともとライブハウスをやろうなんて考えたこともなかったんです。ただ、僕らが育った場所をなくすのは嫌だなっていう気持ちが強くて。それに何事も“なんとかなるんじゃない?”って思っているんで。それで広島に「じゃあ、やらせてください」って返事をしたのがスタートでしたね。

“下北沢にて”があるからこそ 開店資金の融資が下りたところも

会社の名前でもある「近松」は、森澤さんの祖父のお名前だそうですね。

はい。明治時代、近松商店っていう漁網を作る商いをやっていて。縁起もいいし日本的な響きも好きだったので名前をもらいました。

サイトにある、網を作る商いで漁村の発展に貢献し、仕事を通じて人と支え合ってきた先代の姿勢を音楽のある場で受け継ぎたい、という趣旨の代表メッセージも素敵です。

僕自身、今まで網になぞらえるような感じでやってきたんです。2010年から“下北沢にて”っていうサーキットフェスをやらせてもらっているんですけど、一番手作り感のあるフェスだと思っているし、町との関わりがすごく強くて。近松の開店資金は地元の小さな信用金庫に借りたんですけど、“下北沢にて”があるからこそ融資が下りたところがあったり。この町で長年やってきたことを見てもらって、「じゃあ、いいよ」って。下北沢のほかのライブハウスの方たちとも仲良くさせてもらっている…と僕は思っています(笑)。まあ、下北沢全体で見れば、商店街でもライブハウスでも僕が一番ぺーぺーですけどね。

下北沢 近松 森澤恒行さん

30分のために身銭を切って がんばっているのを応援したい

ライブハウスが密集する下北沢で、近松はどんな個性を打ち出していくのでしょう?

今の時代、“ライブハウスはライブハウス”ってくくってしまいたくなくて。レコーディングもリハでのハコ貸しもしていますし、うちの会社にはレーベル機能もあるので、ハマれば一緒にやるし。そうでなくてもどんどん紹介していく。ここで全部できるっていうのが、うちが目指す場所かなと。そもそも「ライブハウス」ってあんまり言ってないんですけどね。お笑いだったり劇団さんだったりが使ってくれていたり、映画も上映したりするので。

ジャンルを問わず、カルチャーが交わる場所。すごく下北沢らしいですね。

です。あとは、やっぱり僕がバンドをやっているっていうのが大きくて。アーティストってイーブンじゃないというか、当たり前のように音楽で食えないじゃないですか。最近は働きながら音楽をやるのも普通になってきているうえで、だったらお互いwin-winでやっていきたいなっていうことを思っていて。たった30分なんですよ、うちに出てくれている若い子たちって。でも、その30分のために曲を書いてリハーサルに入って、自分たちで身銭を切ってがんばっている。そういうのをすごく応援してあげられる場所にしたいなっていう気持ちがあります。

たとえば、どういった形で?

これから来る若いバンドには、もっと外に出ていってもらいたいなと思っていて、毎年10組くらいここでレコーディングしたコンピレーションアルバムを作って、CD店やサーキットフェスで配布するイベントをやっています。ちょうど今、次の3月に配布するCDのバンドを選定しているところです(取材は11月下旬)。あんまり偉そうにしたくないんですけどね。作ったものに対して「こうだよ」とかは言えないです、同じ立場なんで。そうじゃないところで「目標決めてみたら?」とか、そういう話ができるといいのかなと。最近は、いい感じのバンドが増えてきているし、僕のなかでは東京が盛り上がっている印象はありますね。

誰かにとって始まりの場所であり 帰ってこられる場所でありたい

近松が誰かのホームになる日も遠くなさそうですね。

東京のバンドってホームを持たなかったりするんで。でも、帰ってきやすい場所にしておきたいと思うし、帰ってこれないくらい売れても、それはそれでうれしいですね。まあ、あまり期待はせず(笑)、楽しくやれればいいんじゃない?って。そのときそのときで“一番いい”って、彼や彼女が思えるのがいいのかなと。

開店1年を経て、これから先、5年後10年後のビジョンは見えてきていますか?

まだ見えてこないし、先輩方にも「3年はやれよ!」って言われました。まだまだっすね。でも去年より良くなっているのは確実に感じています。僕自身ライブで地方に行くことも多いですけど、ブッキングの梅澤を軸にスタッフたちがしっかりがんばってくれているので、すごく助かっていますね。そこがないと終わっています。僕、いつも助けられているんですよ。それが一番自慢できるところでもあるんじゃないかなって。

今後、近松がどんなカルチャーの網を広げていくのか、楽しみです。

まずは、もっと下北沢で音楽を好きになってくれる場所になりたいなって思います。地元の人が遊びに来られる、地元密着型の場所になれるといいなって。ライブハウスって現状は音楽好きの人しか来ないじゃないですか。そうじゃなくて、初めて来たライブハウスが近松だったっていうような場所にもしたいし。そして、誰かにとって始まりの場所であり、帰ってこられる場所でありたいですね。

下北沢 近松

下北沢 近松

東京都世田谷区北沢2-14-16 北沢プラザB1F
03-3412-7373

2017年3月に閉店したライブハウス下北沢CAVE-BEの跡地に、同所で4年間働いていた森澤さんが、その想いを引き継ぐ形で2017年6月にオープン。キャパシティは約150人。

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