ライブハウス店長インタビュー

vol.44 下北沢 ろくでもない夜 原口雄介さん

vol.44 下北沢 ろくでもない夜 原口雄介さん

伝説のライブハウス「下北沢屋根裏」閉店の知らせを聞き、“あの場所を残したい!”と元スタッフ3人が立ち上げた「下北沢 ろくでもない夜」のオープンから約3年。伝説の場所に芽吹いた“ろく夜らしさ”と革新的な試みについてうかがった。

text:野中ミサキ(NaNo.works) photo:青木早霞(PROGRESS-M)

大事なのは、ジャンルより人。
コミュニケーションをとっていれば絶対いいものができるはずなんで。

僕らがいた2000〜04年くらいの屋根裏って本当にすごかったんです

ろくでもない夜(以下、ろく夜)のオープンは2015年5月。実はその1年ほど前にこのコーナーで屋根裏を取材させていただいたことがあるんです(63号)。原口さんが屋根裏の閉店を知ったのは、どのタイミングでしたか?

僕が知ったのは閉店の1年前くらいですね。このビルのオーナーさんから「屋根裏が閉店するんだよね。店やらない?」って連絡をもらって。僕自身、ずっと自分でお店をやりたいと思ってはいたんですけど、まさか屋根裏の跡地でやることになるとは。

立ち上げメンバーの内田さんと山本さんも屋根裏出身。ですが、3人とも閉店間際までいらっしゃった面々ではないですよね?

そうですね。普通なら「店やらない?」なんて現役スタッフに言うことだと思うんです。だけど、やめて10年くらい経ってもオーナーさんは僕らのことを気にしてくれていて。それは、やっぱり“時代”っていうのも大きくて、僕らが働いていた2000〜04年くらいの屋根裏って本当にすごかったんです。今では大御所と呼ばれるバンドもたくさん出ていたし、いわゆる青春パンクっていうシーンも作っちゃって。あの狭さで月に1千万くらい稼いで、スタッフとバンドの関係も最高で。オーナーさんともその頃から仲が良くて、信頼関係ができている僕らが店をやるって決まって「安心した」と言ってくれましたね。お金には厳しいですけど(笑)。

ちゃんとハコ自体にお客さんをつけられるようにしようって

“古巣の意志を受け継ぐ”といった大義名分で始めたわけではないんですね。事実、ろく夜が今やっていることって、屋根裏がやっていたこととは真逆な印象です。

そうかもしれないですね。僕自身、こだわりも何もないんですよ。アイドルも芸人もロックもパンクもごちゃ混ぜ。大事なのは、ジャンルやカッコ良さより人としてどうかだと思っていて。ステージに立つなら応援したいし、ヘタクソでもコミュニケーションをとっていれば絶対いいものができるはずなんで。だから、屋根裏にはいなかったような人がいっぱいいます。屋根裏を知っている人からすると、全然らしくはないでしょうけど、あまりジャンルにこだわらずいろいろやれる場所でありたいし、そのほうが出演者にとっても気づきや学びがあると思うんです。物販ひとつとってもアイドルとロックバンドとではやり方も違ってくるし、みんな小さい輪のなかでやっているからそれを広げられればなって。

ほかに、この3年間で確立された“ろく夜らしさ”というと、どんなことがありますか?

ライブハウスは出演者に対して「お客さん呼んで」って言いがちなんですけど、“じゃあ、自分は呼べてんのか?”って思ったことがあって。だったら、自分で店をやるときはちゃんとハコ自体にお客さんをつけられるようにしようって、ろく夜を始める前から考えてました。うちはバースペースまでは無料で入れるんですけど、お酒を飲みに来てくれた人がモニターを観て「カッコいいな」ってフロアに入ってくれたりするんです。特に外国人のお客さんなんかはすごく盛り上がってくれるので、出演者もうれしいですよね。それはそれで出会いだし、出演者にとってさみしくない環境を作ってあげられるんじゃないのかなって。これは、ライブハウス&酒場ならではの面白みだと思っています。

下北沢 ろくでもない夜 原口雄介さん

みんなで盛り上がって、つぶれる店が出ないようにしたいんです

オープンして3年も経てば、転機もありそうですね。

僕、1人でブッキングとかやっているんですけど、一回限界が見えたときがあって。これ以上やっていても広がらないなって思っちゃって。おかげさまで今は休みなくやれているんですけど、今だけなのかなって不安もあったし、新宿JAMが閉店しちゃうっていうのも重なって。そこで、ほかのライブハウスの人と仲良くなろうと思ったんです。四谷のアウトブレイクとプレイハウス、渋谷のジージの店長に「ライブハウスを盛り上げよう」って声をかけて。あれは新しい試みでしたね。

ライブハウス同士が結託して盛り上がれば、お客さんも集まってくると。

そうですね。どこかでは敵対心とかバンドを囲っちゃうみたいなことがあるらしいんですけど、僕はそういうの好きじゃないし、助け合えばいいじゃんって思うんです。具体的に何をやっているかというと、たとえば「◯月◯日は空いてますか?」ってバンドから問い合わせが入ったとき、空いていなかったら普通「空いてません」で終わりなんですけど、「うちは空いていないけど、おすすめできるライブハウスはありますよ」って別のハコを紹介するんです。そういう具合にどんどんパスしていくと、今度はうちにもパスがくるんですよね。

考え方もやり方も、ごくごくシンプルですね。

ほかのところを助けようなんて、あんまり考えないじゃないですか。でも、これはいいことだと思うし、みんなで盛り上がって、つぶれる店が出ないようにしたいんですよね。それにこれって、バンドにとっても新しい出会いになるし、ハコ側も「紹介してくれたから」ってすごくいい仕事をしようと思える。ライブハウス同士の信頼も上がりますよね。この取り組みは、まだ始めて1年くらいしか経っていないんですけど、店長4人で月1イベントをやっていて、そのたびに自腹で3千円ずつと募金で集まったぶんを合わせて、今8万円くらい貯まっているんです。これを何かアーティストのためになることに使おうかって話していて。たとえば、渋谷の大型ビジョンで映像を流すとか。そんなふうにやっていければ、全部Win-Winになるんじゃないかって。

うちは店長も3人いるし、“いいお兄さん”が目標です(笑)

その柔軟さとシェアの精神はすごく今っぽいスタイルだと思います。いつも最後に今後の展望をおうかがいしているんですけど、原口さんはそういうことを決めてなさそうですね。

そうですね! まったくないです。うちがどんなライブハウスかなんて、出演してくれた人が決めてくれればいいなって思います。この3年はあっという間で、1年目なんて休みもなくて。それが年数を重ねていくと、働きたいって言ってくれる人が出てきたりして、今はやっと落ち着いてきたかなってところなんですけど、まだ借金はバリバリ残っているし、それがゼロになってからが超楽しいんだろうなって思っています。

“理想の店長像”みたいなものもないでしょうか?

僕のイメージではライブハウスの人たちって偉そうな人が多いし、僕自身気を使われることもあるんです。でも、気を使われない存在ではいたいなって思っています。普段は、肩書きも自分から言わないんです。うちは店長も3人いるし、「何してる人ですか?」って聞かれても適当にはぐらかして。そのへんはバカでいたいし、偉そうにはなりたくないですね。“いいお兄さん”が目標です(笑)。

下北沢 ろくでもない夜

下北沢 ろくでもない夜

東京都世田谷区北沢2-6-5 ルイビル3F
03-6804-9567

2015年3月に閉店した「下北沢屋根裏」の跡地に、同所で以前働いていたスタッフ3人が2015年5月に「下北沢 ろくでもない夜」をオープン。キャパシティは約120人。

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