名物プロデューサー列伝

2017.07.14

INTERVIEW

名物プロデューサー列伝

エイベックス・エンタテインメント株式会社 クリエイティヴグループ クリエイティヴ 第1ユニット チーフディレクター 武氏喜継さん

vol.71 エイベックス・エンタテインメント株式会社 クリエイティヴグループ クリエイティヴ 第1ユニット チーフディレクター 武氏喜継さん

詩吟の師範がボーカルで、和楽器を取り入れたロックバンド、その名も和楽器バンドを手掛け、オリコン1位、日本レコード大賞企画賞受賞、日本武道館ライブ完売、海外でも人気で北米ツアーも大盛況と、成功へと導いた立役者がエイベックスの武氏ディレクターだ。その手腕を公開していただいた。

text:吉田幸司 photo:岡本麻衣(ODD JOB LTD.)

プロデューサーは、手掛けるアーティストの
一番のファンじゃないといけないと思うんです。

レジェンドたちから学んだこと

以前はバップにいらっしゃったそうですけど、バップでは何をされていました?

アニメのサントラを作ったり、アニメのオープニングソングを担当するバンドを手掛けたり、あと、入社3年目には大正九年っていうテクノのソロアーティストを発掘して、デビューさせたりもしました。

そこから2002年にエイベックスに。

最初はいわゆる芸能ものばっかりで、すごく新鮮でしたね。それまでは歌番組の立ち会いなんて行ったことなかったし。毎日が驚きの連続というか、“あ、自分って芸能界にいるんだな”ってことを実感できた瞬間でしたよね。で、そこから異動が何回かあって、たまたま行き着いた先の上司がロック好きで、様々なレジェンドアーティストの方々を担当するようになったんです。

エイベックスとの共同で立ち上げたブロウグロウのアーティストですね。

当時そこにエイベックス側のスタッフとして僕も参画することになったんです。その立ち上げアーティストだったのが、LUNA SEAのJさん、それからPIERROTのキリトさんで、その2組をきっかけに、再始動したLUNA SEA等、自分にとっては若いときから憧れだった大先輩のアーティストの方々を担当していくようになって。すごくテンションが上がりましたよね。

その頃で勉強になったことは?

やっぱりバンドが活動休止して、そこからソロとしてデビューして、ゆくゆくはまたバンドが再始動したりするわけじゃないですか。いわゆる音楽家としての生き方みたいなものを学びましたよね。

言葉にすると、特にどんなことを?

コアファンを大事にするっていうことですね。ファンを裏切らないことの大切さをすごく学びましたよ、先輩方から。

和楽器バンドとの出会い

今プロデュースされている和楽器バンドとはどう出会ったんですか?

もともとは2012年、いわゆる動画サイトの人気者が次から次へと出てくるフェスがあって、自分がもともと担当していた別の和楽器グループの1個前の出番で、鈴華ゆう子(和楽器バンドのボーカル)が詩吟を披露していたんです。それを観たときに、この若さで詩吟の師範ってすごいな、何か面白いことができるんじゃないかなと思って、すぐスカウトしましたね。

順番が違ったら出会えなかったかも。

本当そうです。ただ、スカウトしたはいいけど、エイベックスで詩吟の師範の女性をどうデビューさせたらいいのか、まったくわからなくて。面白い素材であることには間違いないけど、その出口には非常に困りましたね。本人も、エイベックスさんからスカウトされてすごくうれしいんだけど、私に何ができるんでしょうかみたいな。

向こうも向こうで(笑)。

で、ほかに何ができるかといったら、当時ピアノの先生として主に生計を立てていて、あとは剣舞とか詩舞ができますと。もっとわかんなくなっちゃって(笑)。

そこからどうもっていったんですか?

そこから和楽器バンドにつながっていくきっかけになるんですけど、しばらく悩んでいたところ、本人から連絡があって。ちょっといいこと思いついたと。私の真骨頂である和の世界、和楽器と、ロックバンドを融合させたらカッコいいと思うんですよねっていう提案があって。

向こうから。

はい。でも僕は最初、それは絶対ダサいからやめようという話をしたんですよ。ロックバンドと琴とか三味線とか尺八が合わさってカッコいいものになると思えないって話をしたら、だったら、そこをカッコ良くするのが今までロックバンドを担当してきた武氏さんの仕事でしょう!みたいな。

おお!

それで僕なりにいろいろと考えてメンバー集めから一緒にやるんですけど、2人でいろんな動画サイトを観て、鈴華と同じように演奏を披露したりしてるイケてるミュージシャンたちに随時声をかけていった感じですね。それで集まったのが今の8人です。

エイベックス・エンタテインメント株式会社 クリエイティヴグループ クリエイティヴ 第1ユニット チーフディレクター 武氏喜継さん

それまでの常識にとらわれず、愚直にカッコいいものを作ることだけに集中したのが大きかったと思います。

和楽器バンドの成功の要因

いい話です。そこから今度はどう売り出していこうと考えました?

一番こだわったのは映像ですね。もともと鈴華もほかのメンバーたちもほとんどが動画サイトから出てきたので、やっぱりとにかく映像でしょうと。で、当時、動画サイトの演奏してみた動画はだいたいホームビデオの定点カメラで撮ったものを投稿するっていうスタンスだったじゃないですか。あれを本格的なMVとして撮ったのは、たぶん和楽器バンドが初めてなんじゃないかと思いますけどね。

雑誌やテレビに頼らずに、あくまで自分たちの畑で勝負に出たわけですね。

あとは、和楽器の演奏家としてずっと育ってきて、ロックバンドなんて初めて結成するっていうメンバーもいたんですよ。そういう人たちはロックバンドのメンバーとして、ステージ上でどういうふうな動き方をしたらいいのかわからないから、そういったところを叩き込んだ感じですかね。

売れた最大の要因は何だと思います?

それまでのロックバンドの売り方の常識にとらわれなかったことですかね。本音を言うと、結成当初は音楽誌のインタビューも欲しい、ラジオにもテレビにも出なきゃと思っていたんですけど、当時、スタッフが僕と担当A&Rと2人しかいなかったんですよ(笑)。だけどそこであたふたせずに、とにかく愚直にカッコいい動画を作ることだけに集中したのが一番大きかったと思いますね。

和楽器バンドをプロデュースしていくうえで一番気をつけていることは?

マンネリ化しないっていうことは常に考えていますね。このバンドの場合それは特に大事で。2020年のオリンピック開催決定以降はすごく“和”っていうものが重視されてきて、いろんなアーティストが和のテイストを取り入れたりしてますけど、僕らの場合は延々とそれをやり続けないといけないんで(笑)。

ブームでやっているわけじゃないから。

そうなんですよ。一回限りの企画じゃないんで。今はメンバーや社内外のスタッフが素晴らしいアイデアを次々と出してプロジェクトをどんどん進めてくれているんで、逆に僕が感動させられていますけどね。

常識にとらわれないプロデュース

和楽器バンドを離れたところで、プロデューサーとして心掛けていることは?

ほかと似たようなことはやらないっていうのは心掛けたいですね。あと、僕は今後も極力、グループをプロデュースするときはメンバー選びから入っていきたいと思ってるんですよ。これは異論もあると思うんですけど、エイベックスがたとえばダンスボーカルグループを作ろうとしたときに、メンバーはオーディションで選んだりするじゃないですか。そういうふうに、ギターはこの人、ベースはこの人って、ロックバンドのプロデューサーもそういうところから入っていってもいいと思うんですよね。

それも今までの常識にとらわれないプロデュースですね。

LUNA SEAってすごいなと思うのが、単に地元の仲良しが集まったんじゃなくて、当時彼ら自身が地元のすごいミュージシャンたちを集めて結成されたんですよね。

あ、発想は一緒ですね。地元のすごい人が、ネットのすごい人になっただけで。

本当そうです。

和楽器バンドは今後どうしていきたいと思ってます?

今後はテレビとかに出していって、知名度をよりお茶の間レベルに広げていきたいと思ってます。和楽器バンドってパッケージも15万枚以上売れているし、武道館もすでにソールドアウトさせているって言うと、みんなびっくりするんですよ。知らない人が多いんですよね。

逆に、まだまだ開拓できるという。

だから、僕自身が究極に飽きっぽいので、これからも自分自身が1ファンとして飽きないように心掛けたいですよね。結局、自分自身が観たいバンドの理想が和楽器バンドなんで、言ってみれば自分自身がファンの頂点にいると思ってます、どこまでいっても。で、ファン代表である自分がカッコいいと思ってやったことが受け入れられたら、それは成功だし。結局プロデューサーっていうのは、手掛けるアーティストの一番のファンじゃないといけないと思うんですよね。

PROFILE

エイベックス・エンタテインメント株式会社 クリエイティヴグループ クリエイティヴ 第1ユニット チーフディレクター 武氏喜継さん

武氏喜継

1999年にバップに入社し、A&Rを担当。2002年にエイベックスに移り、キリト、J、清春、再始動後のLUNA SEAらのA&Rを担当後、2012年に和楽器バンドを発掘し、プロデュースを手掛ける。

タグ: