ライブハウス店長インタビュー

vol.41 青山 月見ル君想フ タカハシコーキさん

vol.41 青山 月見ル君想フ タカハシコーキさん

地下にありながらも、ステージには大きな満月が輝き、吹き抜けの開放的な空間が広がっている青山 月見ル君想フ。海外のライブハウスに影響を受け、柔軟な考えで様々な企画に取り組んでいるというタカハシ店長に話をうかがった。

text:野中ミサキ(NaNo.works) photo:岡本麻衣(ODD JOB LTD.)

アメリカではどんなに規模の小さなアーティストでもリスペクトされている。
東京と真逆だなと思って。そういうところを変えられたらって。

ライブハウスがすごく嫌いだったんです

タカハシさんが月見ル君想フに入店されたのは?

2009年です。なので、今年で8年目ですね。ちょうどオープンから5周年の年に入りました。その直前は無職で、友達の工房で手伝いをやっていて。たまたまラジオで月見ル君想フの名前を耳にして、「働いてみたいです」って電話したのがきっかけです。

ものすごく直感的ですね。

今思えば、募集もしていないのによく採ってくれたなと思いますけどね。順を追って経緯をお話するとちょっと長いのですが、そもそも最初は、僕、ライブハウスがすごく嫌いだったんです。過去に音楽活動をしていたときに、とあるハコに出ていたんですけど、出演者が入れ替わっただけで、毎月ラインナップがたいして変わらないんですよ。各バンドの周りにいるお客さんや友達ってほぼ決まっているので、月をまたいで出演しても輪としては大きくならないんじゃないか、ライブハウスに出ても広がりがないんじゃないかと思って。そこに気づいてからは、“ライブハウスにはいっさい出ない”と決めた時期がありました。路上とかカフェとかギャラリーとか、いろんなところでライブをやって。その後、アメリカへツアーに行ける機会があったんですが、向こうの音楽社会を知って本当に驚きました。向こうって道に迷ったとき、そのへんのおばちゃんにライブハウスの場所を聞くとちゃんと知っているんですよね。

日本では考えられないですね。

それに、まず基本的にチャージが安い。しかも日本と違って、外にいると中の音が漏れ聴こえてくるので、通りの人がそれを聴いて“いい”と思ったら入ってくる。で、チャージが安いから、みんなドリンクを飲むんですよね。お店の収益はドリンク代で上がるし、チャージは出演者へ支払われるんです。どんなに規模の小さなアーティストでもリスペクトされている。東京とくらべると真逆だなと思って。そういうところを変えられたらっていう思いが胸にあって。面接でそういう経緯を話すうちに意気投合して、ここにたどり着いた感じですね。

買い物がてら立ち寄れる昼間のイベントを積極的に組んでます

では、ここに入られた当初から“ゆくゆくは店長に”というような気持ちがあったんですか?

店長になったのは、たまたま長く務めていて、ほかにやる人がいなかったからって感じです。最初はカウンターの仕事をしていたんですけど、入って1〜2ヶ月したときに制作をやりたいと申し出ました。そこから研修をしてくれて、以来制作をやっています。店長の肩書きがついたのは、3年前くらいです。

店長になられてから、どんなことに力を入れていらっしゃいますか?

まず、中のことですね。スタッフがいかにストレスなく働けるかとかを考えながら雑務をこなしています(笑)。またブッキングマネージャーも兼任しているので、企画者としてイベントを仕掛けられるよう努めています。たとえばここは表参道から歩いて来られる距離なので、普段ライブハウスには行かないようなファミリー層や年配層に向けて、買い物がてら立ち寄れる昼間のイベントを積極的に組むようにしたり、あとは、結婚式にも力を入れています。青山ってブライダルの街なんですよ。週末は結婚式帰りの人であふれている。ライブハウスで結婚式っていう発想は当時考えられないものだったんですけど、2代前の店長がそこに目をつけて取り込んで、今では定着しました。

青山 月見ル君想フ タカハシコーキさん

こちらが面白いと思うことをアーティストへどんどん提案します

そういった土地柄を活かした企画も特色のひとつだと思います。が、そもそも青山という街は人も物事も流動的で、シーンが根づきにくい印象があります。そんな場所で運営を続けるために重視していることは?

会場が意志を持って、やりたいことを発信していくということですね。確かに、ほかの街にくらべるとシーンが作りにくい土地ではあるかもしれません。ただ、大事なのはアーティストにどんなイベントをやってもらうか、こちらからどんなことを提案できるか。いろんなハコがあると思うんですけど、うちの場合はこちらが面白いと思うことをアーティストへどんどん提案します。

具体的に取り組んでいるのは、どういったことでしょう?

たとえば、2バンド同時にステージにセッティングして1曲ずつ交互に演奏していく新しい2マンライブ。これは長くやっていますけど、めちゃくちゃ面白くて。バンドには、曲順も決めないで来てもらって、基本的には目の前で演奏が始まってから次にやる曲を考えてもらうんです。DJでいうBACK TO BACKです。普通の対バンだと、目当てのバンドだけを観たいお客さんが帰っちゃうんですけど、この形だと必ず最後まで楽しめるんじゃないかなと。このイベントができたおかげで、新しい対バンの仕方、もしくは新しい音楽の聴き方を提案できるようになった気はしています。最近は、英会話教室もやっているんですよ。音楽をやっている人が必要な英語を学ぶ場がないんじゃないかなと思って。ツアー先で英語がしゃべれない人が何もできずに帰ってきた話とか、よく聞いていたんですよ。だから本当に実用的なことからやるんです。MC中の気の利く一言とか(笑)。実際、ツアー直前のバンドが駆け込みで来てくれたりしますね。

台湾を拠点にアジア諸国にも活動範囲を広げていきたい

新しい2マンも英会話教室も、まさに冒頭でおっしゃったような“輪として大きく”するための取り組みですよね。しかも、その輪は海外にまで向けられている。2014年に台北支店をオープンしたことで、よりその広がりを感じられているのでは?

具体的に架け橋にはなれていると思います。送り出しも迎え入れもできるので。

ちなみに、現在の台湾の音楽シーンは?

わりとソフトなカフェミュージックが人気みたいです。あと、インディバンドシーンも熱いですね。台湾のバンドは日本のシーンが好きで追ってくれている印象があって、日本人にとっても興味を持ちやすい音楽が多いと思います。たとえば下北沢で遊んでいるような子たちが興味を持つライン上に位置しているような気はしています。ただ、向こうのいい音楽を日本で紹介することも大事なんですけど、なにより輸出がうまくできるといいなと。日本って文化の輸入輸出がヘタだと思うんです。それをもうちょっとうまくやれたらなあと。台湾を拠点に東南アジアや中国、韓国などへ活動範囲を広げていきたいと思っていて、今はそういうところを見ています。

今後、青山から世界へどんなアーティストが飛び立っていくのか楽しみです。

もちろん、いずれの話ではありますけどね。最終的には日本で活動しづらいようなバンドがそういうところへどんどん出ていって、リスナーを獲得していけたらいいのかなということは考えています。ちょっと大きいことを言いすぎていたら恥ずかしいですけど(笑)。

青山 月見ル君想フ

青山 月見ル君想フ

東京都港区南青山4-9-1 シンプル青山ビルB1F
03-5474-8115

2004年オープン。ステージの背景には、どんな演者にもなじむという煌々とした満月が浮かんでいる。南インドカレーや、ジョッキ提供のビールなど、フード&ドリンクも充実。

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